松尾豊東大教授が語る「生成AIと著作権の現状」 日米欧の違いは?(2/2 ページ)
松尾豊東大教授の講演をレポート。中編では生成AIと著作権におけるルール作りの現状と、日米欧の違いについてお届けする。
松尾氏「各省庁の取り組みは画期的」
では、日本はどうしていくのか。日本では各省庁が文書を出している。例えば文化庁は5月30日に「AIと著作権の関係等について」という見解を発表した。AIに関する法文としては、2018年に策定された「著作権法30条の4」がある。これはAI開発における情報解析では、原則として著作権者の許諾なく利用することが可能というものだ。この法律によって日本におけるAI開発が非常にやりやすいものになっている。
ただし無制限に自由なものではなく「必要と認められる限度」を超える場合や「著作権者の利益を不当に害することになる場合」はこの限りではない。
生成AIによって生まれた画像などの著作権の扱いについても見解を示している。生成AIによって出力された画像が既存の作品に似たものになってしまった場合は、「類似性」と「依拠性」によって判断する。「類似性」は、生成物が元の著作物に似ているかどうかという点。「依拠性」は、既存の著作物をもとに実際に創作したのかどうかという点だ。この2つが該当すれば、その生成物は著作権侵害になる。
7月4日には、文科省が初等中等教育段階における生成AI利用のガイドラインを発表。「有効な場面を検証しつつ限定的な利用から始めることが適切」と示した。生成AIの出力をそのまま答えにしてしまうのは良くないことである一方、論点整理やアイデア出しといった用途ではむしろ活用したほうがよいとしている。
生成AIを用いた契約書作成支援ビジネスの面でも、ガイドラインを示している。8月1日には、法務省が「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係」について公表。弁護士法第72条では、弁護士の独占業務である「非弁行為」について定めている。
非弁行為には「報酬を得る目的」などいくつか要件がある。例えば契約書の作成においても「定型的なひな型を用いて契約書等の作成業務を支援するサービス」などであれば、非弁行為に該当しない。従って契約書など、法文書の作成に生成AIを用いることは問題ないという見解を法務省が示している。
ただ、これは弁護士ではない一般の人に対してのサービス提供の場合だ。サービス提供の相手が弁護士資格を持つ専門家に対してのサービス提供であれば、非弁行為に該当する取り組みであっても生成AIの利用は問題ないとされている。
そのため一般の人に対しては、生成AIを用いた契約書作成支援ビジネスは非弁行為にはあたらない。弁護士資格を持つ専門家に対しては、生成AIによる業務支援サービスが提供できるというわけだ。
こうした各省庁の取り組みを、松尾教授はこう評価する。
「こういう新しい技術が出てきたときに、事業者の側でどこまでやっていいのかが分からず、役所に問い合わせても答えてくれないことが多いのです。その点、役所から何をやっていいかを明示してくれると非常にやりやすいと思います。本当に画期的な取り組みだと思います」
さらに松尾教授はAI戦略会議の座長として、今後の対応についてこう話す。
「こうした各省庁の動きを受けて、AI戦略会議でも、現行法でも生成AIの活用にいかに支障がないかという点をしっかりと周知していきます。同時に、必要なところについては検討していきます。やっていいことはトップダウンで『良い』と明示することで、イノベーションが前に進んでいくと思います。行政が説明していくことも重要ですし、民間でのベストプラクティスを共有していくことも大事だと思います」
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