職場で生まれる「この人、誰?」を解消 アサヒグループ“オフィス改革”の成果:ハイブリッドワークの挑戦と舞台裏(1/2 ページ)
2020年8月からリモートワークを含めた新たな働き方を模索しているアサヒグループ。グループ内の各社で個別に分かれていたオフィスを統合・シェア化するとともに、リニューアルも進めてきた。この3年間でどのような成果を得られたのだろうか。
コロナ禍が落ち着きを見せたことで、これまでリモートワークが中心だった各社の「オフィス回帰」が進む。この3年間を経て、各社はどのような取り組みを行い、どんな課題や成果が見えてきたのか。今回の記事では、リモートワークの定着とともに、これまでグループ内の各社で分かれていたオフィスの統合を進めてきたアサヒグループの事例を解説する。
働き方とコストで成果 コミュニケーションの課題は?
アサヒグループでは2020年8月に「Asahi Work Life Innovation」を策定した。コロナ禍の拡大により春先から緊急対応としてリモートワークを導入していたものの、あらためてグループとしての方針を示した。
同時に、全国にある拠点の集約に着手。地方拠点や本社などを3つのフェーズに分けてリニューアルしていくとともに、グループ内の各社で共有する形へと変更した。グループ全体のオフィス戦略や働き方を担当するアサヒグループジャパンの川端亮平氏(総務部 総務企画グループ シニアマネージャー)は、計画策定のポイントを次のように振り返る。
「コロナ禍を踏まえ、在宅・テレワーク中心の働き方にシフトしていくのは明白でした。そこで、各自が自身の仕事の目的やアウトプット・成果物に合わせて場所を選べるようにすることを一丁目一番地としました」
以前も育児や介護を行う社員からリモートワークのニーズはあったというが、グループ全体としての制度は整っていなかった。新たにグループとして方針を示して取り組んだことで、いくつかのメリットも出たという。
その一つが働き方の柔軟性だ。これまでは出社が前提だったため、本来はオフィス以外でも可能な打ち合わせや業務でも出社せざるを得なかった。方針を定めてからは、業務に応じてリモートワークを中心とした効率的な働き方が実現した。
コスト面でも効果を発揮した。これまではグループ内の会社ごとに発生していた賃料を、グループとして集約したことで効率化が実現。金銭面だけでなく、各社ごとに持っていた受付・来客業務などの業務運用も効率化された。
3段階に分けてリニューアルを進めたオフィスの第1弾は、21年4月から運用開始。リニューアルでは、コミュニケーションの円滑化に注力した。20年以降の取り組みを通して社内でアンケートを取ったところ「従来は立ち話で解決したものが、今はいちいちWeb会議を設定しなければいけない」「オフィスにいる人と在宅の人との温度感の差が気になる」などの声が上がっていたという。
そこで、オフィスと在宅が混在するハイブリッドな会議でも円滑にコミュニケーションできるよう、各拠点の会議室にWebカメラとスピーカーを整備。在宅で会議に参加すると、オフィス側の空気感が伝わりにくいこともあるが、モニターにWebカメラを取り付けることで、会議室全体をリモートからでも見られるようにしている。
本社や恵比寿オフィスなどが含まれる最後の第3弾は、22年にリニューアルを完了した。中でも恵比寿オフィスは地名とかけた「E-BASE Camp」と銘打ち、フロアごとに特徴のあるスペースを設けるなどの工夫を凝らした。
「営業拠点を集約する形で恵比寿オフィスをリニューアルするに当たって、どんなオフィスにしたいかを話し合った結果、ベースキャンプというコンセプトが生まれました。中でも、2階と5〜9階では、それぞれ『セレンディピティ』『マッシュアップ』といったキーワードを基にしたスペースを設けています」(川端氏)
例えば「セレンディピティ」がテーマの2階は、エリアに広がりを持たせて、コミュニケーションが生まれやすいようにした。7階は「マッシュアップ」として、多くのアイデアを組み合わせて新たなものが生まれるような、複数人で共有や編集を行う前提で設計。その他、「リシンク」をテーマに5階はリラックスして考えを深めやすい空間を意識したり、8階は「ハッカブル」としてブレストなどをしたりすることを前提にしてデザインしている。
また、恵比寿オフィスと大阪オフィスでは、内田洋行と協力して、オフィス内でどこに誰がいるかが分かるシステム「Smart Office Navigator」を導入。PCやスマートフォン上で、現在オフィスにいるメンバーの所属や顔写真が分かるようになっているという。
「どこに誰がいるか、そしてどんな人かという点は、コミュニケーションの入り口となる基本的な部分です。例えば、隣にいる人の部署や業務内容が分かれば『ああ、この人はこういう仕事だから、こういう話をしているのだ』と知り、そこからコミュニケーションが生まれることもあると期待しています」(川端氏)
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