自由な働き方を実現させる最終兵器 「ABW」は日本で根付くのか?:求められるのは「パーソナライズ化」(1/3 ページ)
最近、欧米の企業が相次いで導入し注目を集めている勤務形態「ABW (Activity Based Working)」。仕事の内容に合わせて、好きな時に、好きな場所で働く、この働き方は日本で根付くのだろうか?
特集「ポスト平成の働き方」
2019年5月1日に元号が変わり、新たな時代が幕を開ける。平成の約30年間でビジネス環境は大きく変化した。その最大の要因はインターネットの登場である。しかし一方で、働き方や企業組織の本質は昭和の時代から一向に変わっていないように思える。新時代に突入する中、いつまでも古びた仕事のやり方、考え方で日本企業は生き残れるのだろうか……? 本特集では、ポスト平成の働き方、企業のあるべき姿を探る。
第1回:「平成女子」の憂鬱 職場に取り憑く“昭和の亡霊”の正体とは?
第2回:「東大博士の起業家」ジーンクエスト高橋祥子が考える“ポスト平成の働き方”
第3回:「3年以内に辞める若手は根性なし」という批判が、時代遅れになった理由
第5回:麻布、東大、興銀……エリートコースをあえて捨てた男の仕事論
第6回:あなたは「上司の命令なし、社員が何でも決める」職場で働きたいか
第7回:本記事
仕事の内容に合わせて、好きな時に、好きな場所で働く。これは欧米で広がりつつある働き方「ABW(Activity Based Working:アクティビティー・ベースド・ワーキング)」だ。
しかし、「ABW」は日本の企業にまだ十分理解されていない――。こう指摘するのは、オフィスデザインや工事を行うフロンティアコンサルティング(東京都中央区)執行役員の稲田晋司氏だ。設計デザイン部門を担当する稲田氏は、海外のオフィス環境やワークスタイルにも精通し、自社のオウンドメディア「Worker's Resort」で海外の働き方やオフィス事情などの情報も発信している。
一方で稲田氏は、日本でも働き方改革関連法の施行を控え、働き方の意識が変わりつつあると話す。5月1日に平成が終わり、新たな時代を迎える。長時間労働が当たり前になっていた「昭和の働き方」から、価値観も含めて変化していかなければならない。「ポスト平成時代」が訪れる中、旧態依然とした働き方を変えていくには、企業と働く人それぞれに何が求められるのか。稲田氏に聞いた。
稲田晋司(いねだ しんじ)。フロンティアコンサルティング執行役員(管轄:設計デザイン部門・アメリカ支社)。1980年東京都出身。建築設計事務所にて住宅の設計を中心とした業務に従事し4年半勤めた後、オフィスデザイン業界へ。2007年フロンティアコンサルティング設立時より参画し、デザイナーとしてキャリアを重ねつつ09年に一級建築士を取得。現在、海外拠点とあわせて約70人のデザイナーを抱える設計デザイン部門を統括する。またクリエイティブディレクターとして、クライアント企業のオフィス構築プロジェクトに関わる傍ら、海外支社設立や、社内の業務改善や新規事業を推進。オウンドメディア「Worker's Resort」の運営責任者として国内外のオフィスや働き方をリサーチしている
「働き方」で学生が企業を選ぶ時代に
――ポスト平成の働き方を考える前に、まず前提として日本企業の働き方の本質は、朝出社して夕方帰宅するのが主流で、昭和の頃からあまり変わっていないように感じます。昭和から現在までの価値観の変化をどうみていますか?
昭和の働き方は、成果よりは働いた時間で給与がほしいという考え方でした。これは働く人だけでなく企業も同じで、基本的には時間に対して給与を支払っていた傾向が強いと思っています。平成になるといわゆる「成果主義」が出てきて、いろいろな働き方を考えるようになり、現在までに選択肢が広がってきたのは確かです。
ただそれぞれの選択肢を実行できているかというと、実際はできていませんでした。それが、今年4月から働き方改革関連法も順次施行されることで、土壌のようなものができてくるのではないでしょうか。元号が変わる今年以降は、多様な働き方の実行フェーズに入ってくると思っています。
――実行フェーズに入ってくるというのは興味深く感じます。そのような動きを具体的に感じている部分はありますか?
先日「Worker's Resort」の取材で、大学生に就職活動の際に何を重要視しているかを聞きました。経営者など人の魅力、事業内容、給与、働き方、知名度、勤務場所、企業文化の7項目で、順番をつけてもらったのです。
1番上にきたのは給与でした。意外なのは、2番目が働き方だったことです。事業内容や人の魅力、勤務場所よりも、働き方が上にきたことに驚きました。法律も変わってくる中で、学生が働き方を新たな選択軸としていることが、まさに世相を反映していると感じています。
――学生の方が、働き方改革に敏感に反応しているのですね。
面白かったのは、学生にどういう働き方をしたいのかを聞くと、一人ひとり答えが違うことです。勤務時間は自由にさせてもらって成果で評価してほしい、という学生もいれば、従来のように時間を管理してもらわないとやれる自信がないという学生もいます。働いている時間分の給与をもらえればいいと。
つまり、何が正しいとか、どちらがいいとかではなくて、いろいろな選択肢を作ってあげることが大事です。企業は今後、働き方の選択肢を広げることで採用面でも強くなるでしょうし、離職率を上げないことにもつながってくると思っています。
オフィスは服装と同じで「最適化」が必要
――経営者に話を聞くと、オフィスをどう作るかについては、採用と同じくらい悩んでいるといいます。働き方とオフィスの関係をどのように捉えていますか。
オフィスは作るのに膨大な費用がかかりますよね。東京の賃貸では、坪単価の平均は2万円くらいなので、例えば200坪だと月400万円。年間で4800万円です。
最初に内装工事も必要になりますから、坪20万円から30万円で工事をしたとして、4000万円から6000万円。最初の2年間で1億5000万円くらいかかります。ある意味、新規事業ができるくらいの費用です。
それぐらいの費用をかけているのにもかかわらず、いままでのオフィスは事務作業をする場でしかありませんでした。だからオフィスをもっと活用したほうがいいと思っています。
――オフィスは部署ごとに席があるといったイメージですが、どのように変えていけばいいのでしょうか。
リアルな場所を用意する理由や、その場所の役割を、企業がしっかり考えることが大切です。社内の情報は外では話せませんから、コミュニケーションの場は必要になります。研究開発をする場所もオフィスにしか作れません。何のために使うのかを考えれば、オフィスは企業ごとに違った形になると思います。
――企業が成長すると、オフィスを広くしなければならないという課題も出てきますよね。
オフィスは服装と同じだと思っています。仕事をする時はスーツ、スポーツをする時はジャージ、ボランティアにいくときはラフな格好など、活動によって服を変えますよね。でもオフィスの場合は、事業内容や仕事のやり方が新しくなっても、変えるケースは少ないでしょう。
そうなると、働いている人の中には、スーツを着てサッカーをしているといった状態の人もいるわけです。それでは100%のパフォーマンスは出せません。最適化ができていないのです。その時のパフォーマンスが最大化できるように、事業内容にあわせてオフィスを作り変えていくことが必要だと思っています。
その時に、企業としてはできるだけ経費を削減したいので、人数が増えても面積の拡大をできるだけ抑えたいと思うでしょう。でも、家賃の安いところに引っ越せば、面積を広げることはできますし、投資のやり方も、最初に予算全額をかけるのではなく、まず7割の予算でオフィスを作り、残った3割の予算で継続的にオフィスを変えていくやり方もあると思います。
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