異質さ際立つ「カスハラ」なぜ起きる? メカニズムをひも解く:働き方の見取り図(3/4 ページ)
脅威として受け止められるようになってきたカスハラ。そのメカニズムをひも解くと、多分に異質な面があることが見えてくる。カスハラは他のハラスメントとどう違い、どんな特徴があるのか――。
カスハラ被害を招く職場の悪しき風習とは?
パワハラは基本的に上司から部下というように一方通行で発生し、上下関係は固定されています。一方でカスハラは、パワハラのように加害者と被害者の関係が固定されておらず流動的です。誰もが働き手にもなれば顧客にもなりえます。カスハラの特徴である「顧客等」という立場は、働いている者同士であれば瞬時に入れ替わる可能性さえあり、双方向性が潜んでいるのです。
ところが“お客さま”と持ち上げられた顧客は、その優位な立場が固定的だと勘違いしがちです。さらに、そんな優位な立場に対する揺るぎない安心感に、お金を払う側の方がエライという意識も重なると増長してしまいます。
しかし、取引は原則として等価交換です。顧客は、商品やサービスにその金額に見合う価値があると考えるから交換しているに過ぎません。お金を払う側の方がエライという意識もまた勘違いです。そして、顧客という優位な立場は流動的で、場面が変われば立場がゴロっと入れ替わる可能性もあるのに「客に逆らうのか!」などと横暴に振る舞うカスハラ加害者の様子は滑稽でしかありません。
一方、顧客を“お客さま”と見なして接しているカスハラの被害者は、反対に顧客の優位な立場が固定的で、永遠に逆らえない対象だと思い込んでしまうところがあります。カスハラとは「顧客等」という優位な立場が固定的だと勘違いした加害者が引き起こし、同じく優位な立場が固定的だと思い込んでしまった被害者が我慢し、甘んじて受け続けてしまうことで成立するハラスメントだと言えます。
被害者が“お客さま”の優位な立場を固定的だと思い込む原因の一つは、職場が「お客さまは神さまです」といった言葉の意味をねじ曲げて、従業員に顧客を絶対視するよう求めてしまうことにあります。真面目な従業員ほど“お客さま”を絶対視しなければならないという暗示にかかりやすく、顧客の振る舞いが横暴であっても受け止めようと努めてしまいがちです。
しかし、嫌がらせするような相手を職場側が顧客と見なさなくなれば、その時点で優位な立場は消滅します。従業員は“お客さま”の呪縛から解放され、横暴な振る舞いを受け入れる必要性がなくなります。つまり、カスハラをなくすには、職場側がハラスメントする相手を顧客とは見なさなくなれば済むとも言えます。
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