QRコード、タッチ決済 鉄道はキャッシュレス乗車でどのように進化するか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/6 ページ)
JRや大手私鉄では、すでに交通系ICカードが普及・定着したにもかかわらず、QRコードやクレジットカードのタッチ決済が導入されつつある。交通系ICカードで十分なはずが、なぜQRコードやクレジットカードタッチ乗車にも対応するのか。これからどうなっていくかを考えてみたい。
それでもQRコードが好まれる理由
QRコードスキャンは交通系ICカードと同等の速度を出せるか。私はたぶん無理だと思う。航空機の搭乗はQRコードスキャンのおかげでかなり早くなった。しかし駅の自動改札ほどではないし、スキャンで引っかかる人も毎回数名見かける。実は私も何度か失敗している。紙のQRコードは紙が薄いと読み取りにくいようだが、ほかの紙と重ねると無関係な文字や柄を透過するので読めない。スマートフォンの場合もタテヨコを回転すると隠れて読めないし、航空会社のアプリでQRコードを出したのに、なぜかウォレットアプリが立ち上がってQRコードをふさいでしまうこともあった。
JR東日本は24年度下期に東北エリアからQRコード改札機を導入し、BRTを除く全駅に導入エリアを拡大するという。しかし現在のQRコードの処理速度を考えると、都市部の駅では、交通系ICカード専用改札機数台につき、QRコード改札機1台程度になると思う。つまり、現在の磁気券改札機の設置割合程度になり、交通系ICカード専用改札機をスピードレーンとして旅客誘導する形になるだろう。
QRコード乗車券を導入するもうひとつの利点は、「スマートフォン決済のあと、紙のきっぷの受け取りが不要になる」ことだ。これは本連載の前回記事「利用されない指定席券売機 やっぱり「駅の窓口廃止」は間違っている」に通じる。現在のオンライン予約は、新幹線の駅間のみであればスマートフォンだけで購入から乗車まで完結する。しかし在来線に乗り継ぐ場合は現地できっぷを買うか、オンラインで予約して、駅の指定券販売機や窓口で受け取る必要がある。
JR沿線に住んで窓口に行ける人でない限り、きっぷを受け取る手間がかかる。旅行当日に受け取ればよいけれど、窓口や指定席券売機が混雑すると指定した列車に間に合わない。こうした面倒が解消する。JR東日本が22年11月8日に発表した「QRコードを使用した新たな乗車サービスの導入について」でも例を挙げて紹介している。えきねっとできっぷを購入するとき、「QR乗車」を選択すれば、改札を通過するQRコードが発行される。
「スマートフォンできっぷを買って、すぐ乗れる」という利点は、大手私鉄も採用し始めた。東急電鉄は、QRコードとクレジットカードタッチ乗車に対応した自動改札機を導入している。23年8月30日までに田園都市線全駅で導入し、23年冬までに大井町線、東横線、目黒線、多摩川線、池上線、こどもの国線に導入する。24年春には世田谷線に導入し、24年度下期に新横浜駅に導入して全線の整備を完了する予定だ(参考リンク)。
田園都市線全駅に導入完了した時点で、「田園都市線・世田谷線 ワンデーパス(680円)」「田園都市線・世田谷線・東急バス ワンデーパス(1000円、23年10月末で終了)」「世田谷線散策きっぷ(380円)」を販売した。この時点では世田谷線と東急バスにQRコード改札がないので、スマートフォン画面の券面を見せて乗る形になる。購入時にクレジットカードのタッチ乗車を選択できるけれども、世田谷線と東急バスを利用する場合はやはりスマートフォンの画面提示となる。不正乗車防止のため、QRコードは適宜リフレッシュされる。スクリーンショットでは利用できない。
東急電鉄は23年度冬までに、東急全線ワンデーバスなどの企画乗車券を提供するほか、東急沿線施設の入場券、サービス券と乗車券のセット商品を販売予定だ。24年春以降は後払い型の乗車サービスも検討しているという。
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