QRコード、タッチ決済 鉄道はキャッシュレス乗車でどのように進化するか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/6 ページ)
JRや大手私鉄では、すでに交通系ICカードが普及・定着したにもかかわらず、QRコードやクレジットカードのタッチ決済が導入されつつある。交通系ICカードで十分なはずが、なぜQRコードやクレジットカードタッチ乗車にも対応するのか。これからどうなっていくかを考えてみたい。
大阪・関西万博と訪日観光客に向けて
近畿日本鉄道は23年11月2日、24年度までにクレジットカードタッチ乗車を全駅で対応すると発表した(参考リンク)。ただし京都市営地下鉄と接続する竹田駅、JR西日本と共同使用する柏原駅、生駒鋼索線各駅は対象外とのこと。他社と連携する駅と、もともと自動改札を持たない生駒鋼索線は対象外だ。他社との連携が課題かもしれない。使用するシステムは三井住友カードが提供する公共交通機関向けソリューション「stera transit」を活用する。
近鉄はJRを除くと日本で一番営業距離が長い鉄道事業者だ。それだけに(ほぼ)全線対応はインパクトがある。すでに特急券はデジタル化が進み、ネットやスマートフォンで予約できた。そこに乗車券機能のクレジットカードタッチ乗車とQRコード乗車券が加わる。近鉄はこの2つを合わせて「デジタルきっぷ」と呼んでいる。
新幹線から近鉄に乗り換える場合、デジタルきっぷを購入し、スマートフォンにQRコードを表示すれば、近鉄のきっぷ売り場に並ぶ必要はなく、改札口へ直行できる。この「新幹線との連携」が導入のきっかけだった。コロナ禍で旅行会社の窓口が縮小し、自社エリア以外の販路が減ってしまった。また既存の旅行会社やオンライン専門旅行会社、将来はMaaSと連携するためには、乗車サービスのデジタル化が必須と考えた。そこで21年5月に担当役員を定めプロジェクトを発足、22年3月にサービスインというスピード導入を果たした。
ただし当初は、近鉄名古屋、伊勢市、宇治山田、五十鈴川、鳥羽、鵜方、賢島の各駅にQRコード対応改札機を置き、松阪駅では係員がタブレットとQRコード読み取り機で対応した。早期運用開始のために、首都圏からの利用客に注目した。コスト削減のために改札機は更新せず、既存機にQR制御ボードとQRリーダーを組み込む。これが全国展開の早道だ。
販売システムは、マスターデータの作成・編集を近鉄自身が行い、担当者にセキュリティの知識がなくても安全なデータ管理、登録が可能だ。また、乗車券効力も自由に設定できる。企画乗車券の企画書をつくり、サイト管理業者に発注するという手間を省き、明日からでも新しいきっぷを販売できる。
乗車券は旅行会社を通さず、近鉄の予約サイトだけで販売できるようにしている。その結果、購入時間帯や利用者属性、グループ人数、宿泊地の推定などビッグデータを得て、旅行商品開発に生かせる。
ユーザーに対する配慮として、沿線外の旅行者がアクセスしやすいように、専用アプリではなく、Webベースのシステムとした。キーボード入力を不要とするためソーシャルアカウントでログイン可能で、Apple Pay、Google Payに対応する。
24年度はデジタルきっぷ利用エリアを全線に拡大するほか、特急券と連携したデジタルきっぷの取り扱いも開始する。またクレジットカードのタッチ乗車も全線対応する。きっぷ購入のインターフェースや券面の文字データを複数言語に対応するだけで、訪日観光客は迷わず乗車でき、車掌や駅員の負担も減る。これで大阪・関西万博から京都、奈良、伊勢志摩への観光客の流れをつくる目論見だ。
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