QRコード、タッチ決済 鉄道はキャッシュレス乗車でどのように進化するか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)
JRや大手私鉄では、すでに交通系ICカードが普及・定着したにもかかわらず、QRコードやクレジットカードのタッチ決済が導入されつつある。交通系ICカードで十分なはずが、なぜQRコードやクレジットカードタッチ乗車にも対応するのか。これからどうなっていくかを考えてみたい。
VISAタッチは訪日観光客のため
南海電鉄はいち早くクレジットカードタッチ乗車に取り組んだ。21年4月3日にVisaタッチ決済開始。同年5月11日にApple Pay決済を開始した。早く取り組む必要があった。その理由はコロナ禍前、関西空港駅において訪日観光客の大混雑があったからだ。関西空港駅の1日平均乗降人員は11年に約1万5000人だった。それが順調に推移して18年には3万5000人を突破した。コロナ禍前の訪日観光ブームのすさまじさを物語る。
しかし、うれしい悲鳴といってはいられない。外国人の利用客とは言葉の問題だけではなく、商習慣も違う。鉄道の利用方法も異なる。関西空港駅はなぜ南海とJRなのか。行きたいところへ行くにはどちらが良いのか。きっぷはどこで買うのか、いくらか。特急と急行はどう違うのか。ラピートとはなんぞや? ICOCAとPiTaPaはどう違う? 南海が扱う交通系ICカードのPiTaPaはポストペイ(後払い)式ですぐには買えない。ICOCAは2000円(うち500円は預かり金)ですぐに買えて電車に乗れる。
……というようなやりとりで、おそらく訪日観光客の多くはJR西日本を選んでしまう。一方、海外に目を向ければ、クレジットカードタッチ乗車で交通機関を利用できる。日本でも20年からタッチ決済可能なクレジットカードが発行されている。これなら訪日観光客が新たに交通系ICカードを買わずとも、手元のVisaカードで電車に乗れる。
あわせて、冒頭でも書いたように、磁気式乗車券の廃止が課題となるなかでは次世代乗車券の開発が必要だ。20年8月にプロジェクトが発足し、わずか8カ月で実証実験を始めた。しかし、一挙に全駅対応とはいかない。21年4月時点で関西空港、なんば、新今宮、天下茶屋、中百舌鳥、高野山、和歌山市など18駅。23年11月現在で南海電鉄23駅、泉北高速鉄道5駅の28駅と、南海りんかんバス、南海フェリーにとどまっている。それでも定期外乗降人員の76.8%をカバーしているという。
南海電鉄のユニークなところは、Visaタッチとタッチ乗車を組み合わせた割引キャンペーンを展開している点だ。コロナ禍で乗客数が落ち込むなか、グループ施設での買い物で20%キャッシュバック、運賃20%割引などを展開。21年12月25日のキャンペーンは秀逸で、なんと運賃100%割引を実施し、クレジットカードタッチ乗車の認知度を高めた。
なかでも23年9月1日から11月30日まで、福岡市営地下鉄と実施した共同キャンペーンは傑作だ。福岡市営地下鉄もクレジットカードタッチ乗車を採用しており、南海電鉄と同じ日に乗車(つまり関空〜福岡便を挟む)すると、1回目に乗った鉄道が20%割引になる。これまでも、片方のきっぷをもう片方で提示すると割引するという企画はあったけれども、こちらは改札を通るだけ。クレジットカードは利用履歴が残るからこそできるキャンペーンだ。
南海電鉄はこの運用を継続しつつ、25年開催予定の大阪・関西万博までにクレジットカードタッチ乗車できる駅を拡大するという。
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