強まる気候関連情報の開示、欧州・米国の動きは? 企業の開示対応の3つの指針:世界の「開示」動向を知る(後編)(2/2 ページ)
気候関連情報の開示要請が世界的に強まっている。欧州や米国ではどのように動いているのか? それに伴い企業にも対応が求められている。開示対応のための3つの指針を解説。
企業が気候変動開示を進めるための3つの指針
- 指針1:管理体制と信頼性の確保に注力する
今後、規制主導の開示報告への移行に伴い、企業はサステナビリティ・ガバナンスに関してこれまで以上に強固な管理体制を確立する必要があります。大半の国・地域では、開示が必要な項目は年次決算報告書内に網羅されています。欧州では、気候変動とサステナビリティに関する開示内容は外部保証機関による認証が求められる予定となっており、他の地域でも同様の保証要件が採用される可能性があります。
経営陣、役員、取締役会は、気候関連情報開示だけでなく、開示に関連するデータ管理体制についても責任を問われることになります。企業はTCFDの提言内容を確認し、ISSB基準についてより詳細な理解が重要となり、開示する「リスク・機会」の特定プロセスの構築が必要になります。
- 指針2:スコープ3開示の重要性がますます高まる
企業は自社のGHG排出量の算定・開示・管理・削減に重点的に取り組む必要があります。GHG排出量の開示が義務化され、多くの企業が従来のスコープ1、2だけではなく、スコープ3での排出量の報告を迫られることになるのは確実です。世界中の金融規制当局も気候関連リスクに注目しており、今後は金融機関に対して投融資先の排出量(スコープ3カテゴリ15)の算定・開示を求める声はますます強くなります。一般企業や金融機関に対する開示規制の強化は、市場に出回るデータの信頼性向上につながっていきます。そして、開示に際して一次データの利用がよりいっそう推進されると見込まれます。
これらの状況から、コンプライアンスの実現に必要な人材、システム、テクノロジーなど、GHG排出量の算定・報告を担う社内機能の構築に早期に着手することが重要となります。
- 指針3:全企業が開示必須となる時代へ
世界各国での気候関連情報開示の規制強化に係る急速な進展は、報告の在り方にも影響を与えるでしょう。そして、企業間において(企業Aから企業Bへ)も、情報開示に対する要求がさらに高まると考えられます。
今後は規制側のみならず、取引先からもGHG排出量の情報開示を求められるようになるため(一部では既に開始済み)、開示がままならない場合、国内のみならず、海外のビジネスや資金調達にも影響する可能性があります。これから各国で制定される新たな開示規制の直接的な対象でない企業であっても、自社のGHG排出量の算定・報告はもはやビジネスを続けるための必須事項となる可能性がますます高まっています。
次回は欧州にフォーカスし、CSRDについて解説します。以降は、SECとカリフォルニア州の両観点から、米国で策定が進む新たな規制の詳細に迫ります。
来年24年にISSBが施行されることを踏まえ、TCFDからISSBへの移管が進むことに伴う影響を解説するとともに、グローバル規制の最新情報を皆さまにお届けします。
著者紹介:エミリー ピアス(チーフグローバルポリシーオフィサー, Persefoni AI Inc.)
前職はSEC(米国証券取引委員会)国際部門のアシスタント・ディレクターとして、気候関連の開示問題について、国際規制当局、標準制定者、規制機関とのSECの関与などを担当。SEC参加前は、法律事務所に所属。パーセフォー二公式Webサイトはこちら。
著者紹介:高野 惇(Climate Solutions Center ディレクター, Persefoni Japan 合同会社)
日系コンサルティングファームにて官公庁の脱炭素技術開発政策の立案や民間企業へのGHG見える化、脱炭素戦略立案の支援を担当。欧州にてサステナビリティ領域の博士号を取得しており、国内外の脱炭素技術や政策動向に精通。パーセフォー二ジャパンのXはこちら。
関連記事
- 新規制導入で変わる「気候関連の情報開示」 全体像を把握する
企業に求められる寄稿関連情報の開示の在り方が、これまでと変わってきています。本稿では、現在の状況に至った要因とその背景の全体像を解説します。 - レジ袋有料化の“二の舞”か プラ削減のために導入した「紙ストロー」が別の環境問題を引き起こすジレンマ
2022年は「プラスチック削減元年」と言っても過言ではないほどに紙ストローが普及した。環境に配慮した取り組みのようだが、レジ袋有料化同様に紙のほうが本当に環境負荷が小さいのか? という疑問が消費者の中で渦巻いているように感じる。紙ストロー移行は本当に意味があるのかというと…… - メルカリの「サステナビリティレポート」は何がすごいのか? 約100ページにわたる制作の裏側
サステナビリティをめぐる世界の動きはとても速い。さまざまな関連情報の開示対象は拡大し、義務化の流れも強まる。そんな中、メルカリが発表した「サステナビリティレポート」の質の高さが話題になっている。今回で3本目となるレポートの”目玉”を取材した。 - KDDIの新ボーナス制度、KPIの3割を「ESG達成度」に 1年運用した結果は?
サステナビリティを中長期的な経営テーマに据え、推進する企業が増えてきている。KDDIは社員の賞与にESG指標の達成度を反映させる仕組みを取り入れ、全社的な意識醸成を狙う。取り組みの詳細を同社の執行役員に聞いた。 - 日本企業のサステナビリティ開示率9割超 なのに“場当たり的な”対応が目立つワケ
当社の調査によると、日本のサステナビリティ開示率は96%と高く、開示の質も56%と英国に次いで2位です。にもかかわらず、”場当たり的な対応”に映るのはなぜなのでしょうか?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.