働きやすさと働きがいの両立 どうやって実現?
ホワイト離職に悩む企業は、若手社員が今後のキャリアを想像できるような評価制度を設けているか、育成のための目標管理をしているか、上司がきちんと指導しているのかなどを、再点検してください。
以前、ハラスメント研修の講師をしたときに、受講者として参加していた管理職の方が「部下に仕事を指示したら断られたので、諦めて自分でやった」と言っていました。理由を聞いたところ「パワハラと言われたくないから」と話していました。
これは業務指示なので、本来であれば上司として命令することも可能です。また、その仕事が若手にとってスキルアップのチャンスであれば、その旨をしっかりと話すことによって、若手自身が残業してでもチャレンジしたかもしれません。もう少し言えば、若手がチャレンジする環境を上司が作ってあげていないのが、ホワイト離職の原因になるかもしれませんね。
働き方改革で労働環境を改善するという方向性は、決して間違っていません。働き方改革では、労働環境の改善だけではなく、生産性の向上も求められていました。生産性という観点で考えた場合、多くの企業は、労働時間を短縮するためにDXを推進したり、採用を強化したりしてきたと思います。
それは人事部として当然の取り組みです。今後はそれに加えて、一人一人の生産性を向上させる取り組みにも着手してみてください。
高収益組織は、働きやすさと働きがいが両立している職場です。ここまで働きやすい職場を作ってきたのですから、これからは働きがいのある職場作りにチャレンジしてください。
社員一人一人が目標達成する喜びとその方法を理解した会社は成長します。適切な目標設定や指導の中で、成長のための負荷であれば、残業したっていいじゃないですか。人事部としては36協定や健康状態の把握、それに応じた適切な対応を心掛けてそのチャレンジを全力で応援してあげればいいんです。
最後に、今後の会社の方向性を考えてみましょう。ここまで個々のやりがいについてアドバイスしてきましたが、会社によっては「それぞれが持ち場をしっかり守ってくれればそれでも良い」という会社もあると思います。品質や安全性を重視している会社の多くは「ヘタにチャレンジされるよりもマニュアル通りにきっちりやってほしい」と考えているのです。
もしそうであれば、求人票などの見直しをしてください。リクルートページに「一人一人が主体的に動き成長できる職場です」なんて書いてあれば、もちろんミスマッチにつながってしまいます。働きやすさを前面に出していけば、バリバリ仕事をしたい人は敬遠するので、結果として離職率は改善されるでしょう。今の時代の人事部は本当に多くの使命があります。人事という仕事にやりがいをもって頑張ってください。
著者紹介:大槻智之
1972年4月、東京生まれ。2010年3月、明治大学大学院経営学研究科経営学専攻博士前期課程修了。経営学修士。特定社会保険労務士、傾聴アソシエ、採用定着士、ジョブオペ認定コンサルタント、仕組み経営コーチ、創業50年、550社を超えるクライアントを支援する社会保険労務士法人・大槻経営労務管理事務所の代表社員。採用、目標管理、評価制度、業務改善、経営仕組み化支援までHR全般を手掛ける。
著書に「働きやすさこそ最強の成長戦略である(青春出版)」「規程例とポイントが見開き対照式でわかる就業規則のつくり方・見直し方(日本実業出版社)」
YouTubeチャンネル「社労士大槻智之の働く現場のお悩み相談室」など
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