三陽商会「バーバリーショック」から復活? 7期ぶり黒字の裏側:磯部孝のアパレル最前線(4/6 ページ)
三陽商会の2023年2月期連結業績は、売上高が582億円(会計基準変更前の前期は386億円)、営業損益が22億円の黒字(同10億円の赤字)、純損益が21億円の黒字(同6億6100万円の黒字)となった。本業のもうけ=営業損益が黒字になるのは7期ぶりで、「バーバリー」のライセンス事業を失って以来初となる。
三陽商会とバーバリー、決別のきっかけ
ブランドリニューアルの取り組みの中で、英国本社は1999年にデザイン統括をするクリエイティブディレクターにジル・サンダーのアシスタントデザイナーであるロベルト・メニケッテイを迎え、コレクションラインの「バーバリー・プローサムコレクション」を発表。ブランド名も「Burberry’s」から「BURBERRY」に変え、新生バーバリーをスタートさせる。
その後もバーバリーのリニューアルに向けた取り組みが加速していく。その大きな立役者となったのが、グッチから来たクリストファー・ベイリー(2001年入社)とアンジェラ・アーレンツ(06年CEO就任)だ。
この2人の功績の1つがライセンスを買い戻し、デザインを集中化させたこと。バーバリーのヘリテージ(遺産)と英国らしさを強化し、ブランドストーリーの中核とした。英国を拠点とする企業や工場に投資することで、エルメスやグッチのように美しくて長持ちする製品を目指し、「バーバリーのトレンチコートは長持ちする」というクラフトマンシップ(職人芸)を見直すことから始めた。その他、ライブやSNSを活用して、ロンドンコレクションを盛り上げた。コレクションのランウェイのライブストリーミングや、「SEE NOW BUY NOW(今見てすぐ買う)」システムを先駆けたりもした。
「中国市場への進出」から決別の道へ
最初こそ、改革の波長が合っていた三陽商会と英国バーバリー。その歩みの歩幅に亀裂が生じ、決別の要因になったのは「中国市場への進出」という潜在的な力を秘めた東アジア最大市場への進出ではないかと推察する。
10年頃、三陽商会が立ち上げたブルーレーベルなどを香港で売り出したところ、アジア人の体格に合わせたデザインが受け、バカ売れしたそうだ。そのため、中国という巨大市場に英国バーバリーが進出するうえで、三陽商会は自身を「最高のパートナーであるはずだ」と思っていたのかもしれない。
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