なぜ休日に業務連絡? 「つながらない権利」法制化の前に考えるべきこと:働き方の見取り図(2/3 ページ)
「つながらない権利」が近年、関心を集めている。業務時間外の連絡対応の拒否を求める声が高まっている。法制化して職場とのつながりを一切遮断すれば解決するかというと、問題はそう一筋縄では行かない。「つながらない権利」問題の本質とは――。
問題は「不要不急の業務連絡」
例えば、建築現場で建造物が倒壊するなどの事故対応、突然のシステムトラブル、救急患者の受け入れなど。頻度や緊急度、重要度は違えど、連絡がつかないことで多くの人に被害が及び、人命に関わるケースも考えられます。“職場と常時つながっている”ことでそれらの事態に対処できることもありそうです。
さらには、休みが同僚たちとずれていれば、出社後に確認する前提で勤務中の社員からメールやチャットなどで連絡が入ることもあるかもしれません。しかし、休み中は一切の連絡を認めないというルールが設定された場合、今度は同僚が入れ違いで休みに入ると連絡できるタイミングが一切なくなります。
これらを想定すると、反対に勤務時間外に「つながる権利」を求める社員もいそうです。“職場と常時つながっている”のは問題だからと、勤務時間外は職場と完全に遮断された状態を義務付ければ、さまざまな不具合が生じることになりかねません。
“職場と常時つながっている”問題とは、常につながっている状態そのものが問題視されているのではなく、緊急性が高いわけではないのに、勤務時間外である社員の私的な時間にレスポンスを求めて業務連絡を行ってしまうために生じていると言えます。
勤務時間は私的に使ってはならないのですから、私的時間も仕事に使ってはならないはずです。その点を踏まえると「つながらない権利」はわざわざ法制化するまでもなく、既に誰もが備えているものであり、職場が社員の私的時間にレスポンスを求めて連絡を入れるのは、私的時間の侵害に他なりません。「つながらない権利」を主張することは、私的時間の侵害に対する自衛権の行使だと言えます。
もし勤務時間外の業務連絡に対して社員から何らかのレスポンスが行われた場合、そのやりとりが行われている間は休みではなくなって勤務時間です。勤務時間であれば、当然ながら給与が発生します。
職場が意識すべき3つの取り組み
以上から、“職場と常時つながっている”問題に対して、職場側が取り組まなければならないこととして3点挙げたいと思います。
まず、勤務時間外には社員を休ませる義務を果たすこと。至極当たり前ですが、それができない職場が多いため“職場と常時つながっている”ことが問題になっています。勤務時間外に業務連絡してレスポンスを期待することは、社員に仕事をさせる意思があるということになり、それでは、職場が拘束しているのと同じです。
緊急でもないのに勤務時間外の社員にレスポンスを期待した連絡を入れた場合、メールやチャットであってもやりとりが行われれば、その間社員は勤務していることになります。
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