「作るAI」と「使うAI」に 日本オラクル社長に聞く「生成AIで起こる2つの加速」:新春トップインタビュー 〜ゲームチェンジャーを追う〜
2024年を「エンタープライズ向け生成AI元年」と位置付けている日本オラクル。生成AIが今年どのように飛躍するのか、三澤智光社長に聞いた。
日本オラクルにとって、2023年は好調な1年だった。【日本オラクル社長が明かす「災害時バックアップの課題」 24年は“復旧力”が試される】でレポートした通り、23年6〜11月期の単独決算では、第2四半期として売上高、営業利益、経常利益、純利益で過去最高を達成している。
好調の要因として、オラクルが生成AI関連企業と見られている点も見逃せない。オラクルはカナダのスタートアップ「コヒア」に投資し、企業向け生成AIの研究開発を進めている。主力事業であるクラウドソフト事業の好調に加え、旧来のオンプレミス事業も復調してきている点も大きい。
オラクルは24年を「エンタープライズ向け生成AI元年」と位置付けていて、躍進が期待される。生成AIが今年どのように飛躍するのか。三澤智光社長に聞いた。
三澤智光 1964年4月生まれ。横浜国立大学卒。87年、富士通に入社。95年、日本オラクルに入社。専務執行役員テクノロジー製品事業統括本部長、副社長執行役員データベース事業統括、執行役副社長クラウド・テクノロジー事業統括などを歴任。2016年、日本IBMに移籍。取締役専務執行役員IBMクラウド事業本部長などを務める。20年12月に日本オラクル執行役社長に就任。21年8月より取締役を兼務
エンタープライズ向け生成AI元年 その真意は?
――23年10月末に開いた「Oracle Technology Day/Oracle Applications Day」で、三澤社長は「24年はエンタープライズ向け生成AI元年になる」と宣言しました。具体的なビジョンを教えてください。
エンタープライズAIに関しては、2つの方向性があります。1つは、例えばオラクルのデータベースの中に生成AIを組み込むといったような形です。これが可能になることで、プログラミング言語を使わずとも、われわれが日常会話で使う自然言語によってアプリケーションを開発・編集できるようになります。他にもERP(企業資源計画)ソフトの中に生成AIを組み込めれば、決算レポートの自動化も簡単にできるようになります。
――インターネット黎明期にも自社サイトに検索エンジンを埋め込む動きがありました。同じように生成AIを既存のアプリに埋め込むイメージなのですね。
そうですね。今までは企業がお金をかけてAIに学習させてAIを作るという「作るAI」でした。ただ、そのためにはお金も時間も優秀な人材も必要です。オラクルのような製品群をサービスの中に埋め込むことによって、ユーザーは自社で実行する必要がなくなります。
B2Cの領域では、例えばiPhoneにもSiriが既に搭載されていますよね。グーグル検索にもAIが導入されています。一方、B2Bのエンタープライズのサービスになると、まだ入っていません。こういうことがおそらく24年に始まります。オラクルだけでなく、多くのベンダーがエンタープライズのサービスに生成AIを組み込むようになるでしょう。顧客はそれを利用するだけです。AIは「使うAI」になっていきます。
――企業にとって「作るAI」から「使うAI」になっていくわけですね。
1つ目の方向性が「使うAI」の話だったのですが、一方で2つ目の方向性として「作るAI」の必要性があります。多くのユーザーが米OpenAIのChatGPTなどに触れて勉強をしています。結果どうなったかというと、エンタープライズで使う以上、自社データがないと物足りなくなっています。
既に一部の先進的なユーザーは、自社データをどう活用するかに思考がいっています。自社データを生成AIで使うためのやり方の一つに「ファインチューニング」という手法があります。ただ、これはコストも時間も膨大にかかり、一般的には無理でしょう。
――その金額を出せるのは、それこそ研究開発をしている企業に限られますね。
ですからそれは大半の企業にとって現実的ではありません。ファインチューニングは私たちのような、ある程度の研究開発投資ができて、ビジネスになる企業でないと難しい。
もう1つの活用可能性として挙げられるのが、RAG(Retrieval-augmented Generation、検索により強化した文章生成)ですね。これは大規模言語モデル(LLM)と外部のデータベースや情報源を結び付けるための新しい技術で、既存の生成AIを活用して精度を強化していく方法になります。生成AIがあって、外部データを組み合わせるというやり方が標準になると思います。
RAGを構成して、自社の生成AI活用が始まるでしょう。ただ、生成AI自体もブームになってまだ1年で、この1年間でRAGが必要だと分かってきました。生成AIベンダーも皆その方向に向かっていますが、ツールとしては何も完成していない状況です。オラクルは、このRAGを構成するために完成された仕組みを提供できる、世界でも数少ない企業です。よって24年は、この2つ目の「作るAI」も加速すると思っています。
――エンタープライズ向けAIは、どんな場面で使われるようになるのでしょうか。
生成AIは、人間の言語中枢のようなものですので、いろいろなところで使われるようになります。例えば、製造業に強い言語中枢もできるでしょうし、流通業に強い言語中枢もできるでしょう。より産業ごとに特化した言語中枢ができると思います。
元はOpenAIだったりコヒアだったり、米Metaが開発するLlamaのようなものだったりするのかもしれません。これらのさまざまな生成AIエンジンを使って、ある程度は業界に特化した言語中枢のようなものができるでしょう。
今のRAGを組む場合の問題は、生成AIごとにデータベースが必要だという点です。1個1個RAGを組んでいかなければなりません。その大変な作業を誰がやるのかという話です。
――B2Cの汎用大規模生成AIと比べ、エンタープライズ向け生成AIで特に気を付けなければならない点は何でしょうか。
生成AIをより活用するためには、データをベクトル形式で保存・管理するベクトルデータベースが必要です。このためには、さまざまなデータファイルシステムを一度ベクトル形式に変換しなければなりません。一般的にデータ形式はサービスごとにバラバラであり、この変換作業がとても大変になります。
この点、オラクルではデータ形式が統合されています。Oracle Databaseの中にベクトル形式を新たにサポートするだけで、Oracle Database内のさまざまなデータ形式を一括で高速変換できます。
加えてもう一つ重要になってくるのが、経営層の閲覧できるデータと一般社員が閲覧するデータを分けるデータアクセスコントロールの問題です。エンタープライズ用途なので、より強固なセキュリティを備えたRAGの仕組みが必要です。
――データアクセスコントロールの問題も、エンタープライズならではの課題と言えそうです。
オラクルのサービスであれば、当社が持っているデータアクセスコントロールをかけるだけで対応できます。話を戻すと「作るAI」のスタンダードは、おそらくRAGの仕組みに依存すると思います。RAGを組もうとした際に、今はできないことも多いのですが、一つでも多くのことをできるようにすることに、オラクルは果敢に挑戦しています。ですから、24年はエンタープライズ生成AI元年になると確信しています。
成功企業の経営者の特長は?
――近年は変わってきてはいるものの、日本企業は営業を中心とした社員がたたき上げで経営層になる例も珍しくなく、ITへのリテラシーが欧米などと比べると高くないと良く言われます。日本企業と、外資系双方の経験がある三澤社長はどう考えますか。
成功している会社の経営者は、ITへの理解が深いと思います。実際の細かい技術的な部分までは分からないにしても、方向性や「こうあるべきだ」というマクロなところを捉えられている人が多い印象ですね。一方、伸び悩んでいる会社や、あまり変化がない企業のトップの方は、どちらかというと任せきりにしてしまうタイプも少なくない気がします。
――三澤社長は日本法人の社長として、米国本社の幹部と普段からやりとりしていると思います。どうやって本国と意思疎通を図っていますか。
顧客と接しているときと同じで、いかにシンプルで分かりやすく、説得力のあるコミュニケーションをするか。そこにかかっていると思います。英語が上手な人の方がかえって失敗することも少なくありません。それほど上手ではない人は、準備しなければいけないし、要点は整理しなければいけません。
結局は、本社の幹部と話す際も「お客さんと話す際と一緒だ」と思うようにしています。
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