ユーザー調査の「使いたいと思います」を信じてはいけない、3つの理由:グッドパッチとUXの話をしようか(5/5 ページ)
新商品の発売前などに「ユーザー調査」を実施する企業もあるかと思います。その中で「使いたいと思いますか?」という設問への回答は信頼すべきではないようです。なぜかというと……
工夫3:実際に体験してもらい、良し悪しを検証する
冒頭で紹介した通り、コンセプトテストでは、とあるアイデアに対して、ユーザーが興味を示しているか測るために「この商品(サービス)を利用したいと思いますか?」という問いを提示します。
コンセプトを提示する際は、利用のイメージがわくようにストーリーボードと呼ばれる4コマ漫画を添付したり、サービスの体験がイメージできる動画を見てもらったりします。コンセプトの文章だけでは、イメージがわきづらいことは何となく理解いただけると思いますが、4コマ漫画や動画でもイメージがわかないユーザーも多いのが実態です。
そこで効果的なのは、簡易的にサービスを体験できるプロトタイプを用意し、それを体験してもらった上で「明日からもこれを使い続けてもらえますか?」と問う方法です。
「簡易的といっても、サービスを作るのはコストが……」と思われるかもしれませんが、簡易版を作れるようサポートしてくれるWebサービスやアプリはたくさんあり、数時間程度で作れてしまうものもあります。
例えば、以前筆者が利用したのはLINEのビジネスアカウントで、サービスのレコメンドを「カードタイプメッセージ」という機能を使うことで擬似的に体験してもらいました。
実際に「いいね」や「口コミをみる」といったアクションも行えるので、そのアクションにどんな意図や期待があったのかも知れるほか、どんなユーザーがどんなときに閲覧やアクションをするかまで分かったため、サービスのブラッシュアップにとても役立ちました。
コンセプトテストは、効率的、そして効果的に失敗を重ねられる手段
当社は、新たな価値を持つサービスや商品を模索するプロジェクトを数多く手がけてきました。定性調査も得意としていますし、クライアントが安心して「これだ!」と言えるための方法を研究し続けています。
ただ、新たな価値を作るのは簡単なことではありません。イノベーションはたくさんの失敗の上に生まれるもの。つまり、いかに失敗を積み上げられるかが重要なのです。とは言え、失敗に膨大な時間や資金を使うのはもったいない。今回紹介したコンセプトテストは、失敗を効率的、そして効果的に重ねられる手段とも言えるのです。
一方で、コンセプトテストで多くのユーザーに受け入れられることが分かったサービスが、イノベーションにつながったり、大成功したりするかどうかは懐疑的です。
もちろん、誰のためにもならないサービスを作るべきではありませんが、数が少なくとも、熱狂的なユーザーを生むサービスを作るというのも必要なアプローチだと考えています。
分かりやすい例が「iPhone」「LINE」「X」です。サービスに強い愛着を持ったユーザーやデベロッパーの手で、当初の想定を超えたさまざまな使い方が次々に生み出されたことで、利用者が爆発的に広がっていきました。
最初の使い手を誰にして、その人が次の使い手をどう呼んでいくのか……ユーザーの広がりまで戦略的にデザインしていく。正しくコンセプトテストを行えば、そんなイノベーションに向けたヒントも得られるかもしれません。
関連記事
- なぜ、人は飲み会後にカラオケに吸い込まれるのか 「7つの欲求」から分析
なぜ、人は飲み会後にカラオケに行きたくなるのでしょうか? そして、なぜカラオケはこんなにも人々を魅了するのでしょうか? 人間が持つ「7つの欲求」から分析していきましょう。 - パンはどこでも買えるのに、3990円のサブスクがなぜ人気? UX観点からワケを考える
パンのサブスク「パンスク」が人気だ。毎月8個程度のパンが入って、3990円(送料込み)と決して安くはない。パンはスーパーマーケットやコンビニ、近くのパン屋、どこでも買えるがなぜ今、パンのサブスクが人気なのだろうか? UXデザイナーの筆者が解説します。 - 3万台突破の「しゅくだいやる気ペン」 ハマる親子続出のユーザー体験に迫る
夏の学生の風物詩といえば、その一つに「宿題」があるだろう。子どものやる気を引き出し、前向きに宿題に向かわせる、IoT文具「しゅくだいやる気ペン」が人気だ。ハマる親子続出のユーザー体験に迫る。 - 10年で市場規模が10倍に 「アナログレコード」復活の理由をUX観点から考える
サブスクサービスで音楽を聴くことが増えてきましたが、意外なことにここ10年で「アナログレコード」の市場は10倍に成長しています。なぜアナログレコードが人気なのでしょうか、その秘密をUXの観点から考えてみました。 - なぜ人は「ゼルダの伝説」にハマるのか? マリオのユーザー体験と比較して分かったこと
5月12日に発売された「ゼルダの伝説」の最新作が、発売たった3日で世界販売本数1000万本を突破した。30年以上も愛されるゲームの魅力とはなにか? なぜ人は「ゼルダの伝説」にハマるのか? ユーザー体験(UX)の観点からひも解いていく。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.