「ちいかわ」に見る、SNS発キャラクタービジネスの3つの勝因:エンタメ×ビジネスを科学する(1/2 ページ)
X発の人気漫画『ちいかわ』。長らく愛されるコンテンツとなった要因には、いくつもの「負けパターン」を回避してきた戦略がある。
「ちいかわ」は、イラストレーター・ナガノ氏によるイラスト・漫画作品であり、2020年からX(旧:Twitter)で連載が始まった。主人公のちいかわ、その友達のハチワレ、うさぎらが送る日常を描きつつ、随所に現実的な設定や30〜40代以上が反応する小ネタ、シビアなストーリー展開が盛り込まれている。
22年4月からはテレビアニメが放送され、その人気はさらに広がっている。公式Xアカウントのフォロワー数は1月15日時点で290万人を超える。グッズも人気であり、ネットショップで新作が発売されると即売り切れとなるほどだ。
なぜちいかわはこれほどの人気となったのか、他のSNS発キャラクターとの差異はどこにあるのか。デザインやストーリーなど、クリエイティビティーにおける強みは明らかであるが、本稿ではビジネス展開に着目し、大きく3つの要素におけるちいかわの勝因について考察する。
1. コミュニケーションへの入り込み
ちいかわの強みの一つは、コミュニケーションツールとしての位置付けにある。
ちいかわの始まりはTwitterだ。17年に漫画家のナガノ氏が自身のアカウントで、後に漫画の1ページ目となるイラストを掲載し、以降は他のイラストと同様にグッズ展開される中で人気を獲得し、20年にアカウントが独立し、漫画連載に至った。
ナガノ氏はちいかわ以前から、LINEクリエイターズスタンプで知名度があるイラストレーターだった。「自分ツッコミくま(現ナガノのくま)」のLINEスタンプを発売し、ヒットさせた人物でもある。
ちいかわのコミュニケーションツールとしての強みには、このLINEスタンプのヒットが大きく影響しているといえる。ちいかわのイラスト・漫画の中には、LINEスタンプに求められる「会話の中での反応」に相当する場面が多く盛り込まれている。例えば、ちいかわたちが「うんうん」と頷いたり「ふむふむ」と考え込んだり「びっくり」と驚いたり「ぐすん」と泣いたりするシーンがある。
これらのシーンは、スタンプとして切り取っても十分に意味が伝わるものであり、会話の中で頻発し共感できる感情表現である。実際ちいかわのLINEスタンプは、発売以降ランキング上位の常連だ。ちいかわのスタンプは、絵としてのキャラクターのみならず、会話の中に混ぜ込めるキャラクターであるといえる。
この要素は、同じSNS発キャラクターであっても、ストーリー重視の漫画におけるキャラクターは簡単に満たすことはできない。なぜならそのいち場面はあくまでストーリー展開あってのいち場面であり、キャラクターの感情表現が独立したものではないため、一場面を切り出しても不自然さが残るためである。
キャラクターにはこれまで、大きく2種のパターン「キャラクターとしてのキャラクター」「ストーリーとしてのキャラクター」が存在していたが、昨今それらの間に「コミュニケーションツール/感情表現としてのキャラクター」とも言うべきジャンルが生まれた。その代表例がちいかわであり、ナガノのくまである。
このようにキャラクター展開の一つの勝ち筋である、日常ツールとしての入り込みを実現できている点が一つの勝因といえる。
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