「文房具買うにも申請書」 紙だらけのフジッコ、”紙とハンコの撲滅”どう実現した:業務のムダ改革(2/2 ページ)
フジッコの社内は紙であふれかえっていた。文房具一つ買うにも申請書と検印が必要で、同社の工場では1日に2600枚もの紙が消費されていた。前時代的な慣習の中で、どのように「紙とハンコの撲滅」を実現していったのか?
ネット環境がない? 初歩から始まった工場DX
フジッコではDXに向けた取り組みを「DX1.0」「DX2.0」の2段階に分けている。DX1.0は業務改善、DX2.0ではデジタルを活用した売り上げ向上をゴールとしており、現在はDX1.0の業務改善領域に取り組んでいる。
23年4月、岡山さんを中心とした生産部門メンバーは、日に2600枚の紙が飛び交う工場のDXに着手した。
そもそも、なぜ全7工場で日に2600枚もの紙が使われているのか。岡山さんは「万が一、商品の問題が発覚した場合、生産過程のどこに問題があったのかを調べなくてはいけません。工程のデータや商品の品質管理を紙で行っているのです」と説明する。
「じゃあ紙の代わりにスマホやタブレットで管理すれば?」と思うかもしれないが、そう一足飛びにはいかない。そもそも、工場内で事務所以外はインターネット環境が構築されていなかったのだ。DXはネット環境の整備という小さな一歩から始まった。
また、生産部門では紙に集約させた情報をエクセルに打ち直していたのだが、先述したようにデータを管理するエクセルがブラックボックス化しているという問題もあった。
「そもそも、このエクセル内で組まれている計算式は正しいのか」という疑いから、エクセルのデータを検証するための新たなエクセルまでもが誕生するというおかしな状況もしばしば起こっていたという。スマホやタブレットで管理することで時限爆弾のようなエクセルともおさらばできるというわけだ。
加えて岡山さんは、データの表記ゆれを防ぎ情報を正しく蓄積させるために、共通言語の設定にも着手した。同じ作業だとしても、工場や部門によって「始業前」「作業前」「始業時」など表現が異なっていたのだ。今までは社員の経験でカバーできていたが、他部署の誰が記録を読んでも理解できるよう変更した。
ようやくDX実現の土台が整った生産部門。24年4月から3拠点で運用を開始する予定だ。今回のDXにより、生産部門では24年度で1656時間の削減が可能だと試算している。
岡山さんは生産部門のDXについて、目標が常に上方修正されていくため道半ばに感じる部分はあるとしつつも「計画通りに進んでおり、8割程度の課題が解決できている」と自信を見せる。
DX1.0の土台は整いつつあるが、DX2.0に向けてはどうなのか。岡山さんと寺嶋さんは「データ活用と人材育成」への課題感に触れた。
重要なのは「データを見て仮説を立てる力」
フジッコのDX2.0の定義はデジタルを活用して売り上げを伸ばしていくことだが、まだ道半ばだという。岡山さんは「本来社内で共有すべきお客さまの情報を、十分に共有できていない点に課題を感じています。現在は、消費者や取引先の情報が各部署や個人にひも付いており、社内で共有されていません。情報が断片的で閉じた状態になっているので、商品開発や販売施策に生かし切れていない現状があります」と説明する。
情報を全社的な共有財産にすることで、商品や販売施策への消費者情報の反映や、取引先との商談効率の向上を見込む。部門間での情報共有方法についてはまだ企画段階だが、25年4月に実行チームの構築を目指している。
寺嶋さんは、データの活用と今後の人材育成に関して「データを踏まえて仮説を立てられる力の重要性」を挙げる。
「DXによってデータが可視化されるようになると、発見があると思います。例えば『AとBの工場で同じものを作っているのに、Aの工場の方が所要時間が短い』ということが分かったとします。その際に『工場内の導線の問題ではないか』『AとBはこの点が違うから、こうしたらBの効率も上がるのではないか』などと、状況から仮説を立て検証していく力をより育てていきたいです」(寺嶋さん)
データを読み、仮説を立て、実行し、改善していく。フジッコでもDX人材の育成に力を入れ始めた。23年11月には生産部門を含むDX推進と人事情報の一元管理のために人事システム「COMPANY」を導入。データに基づいた配置換えや昇進を提案できることは人事の公平性にもつながる。人事部では、人事データに基づき、仮説を立て、最適な人事戦略を立案するトレーニングも積めるようになるだろう。
何千枚もの紙が溢れていた社内が変わり、生産部門の管理体制が変わり、DXで事業を加速させる土台が整った。今後は大きな成長を目指して、工場でのインターネット環境のような当たり前の一歩を積み重ねていく。フジッコの未来は、着実に変わり始めている。
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