平均月給31万円、過去最高だけど……「賃上げラッシュ」に潜む3つの課題:働き方の見取り図(2/4 ページ)
フルタイムで働く人の2023年の平均月給は、過去最高の31万8300円――この数字に納得感を持てた人は果たしてどれくらいいるだろうか。賃上げの機運が高まりつつある一歩、その内実は本当に喜べるものなのか。
問題は「賃上げの中身」
これらの背景を踏まえれば、賃上げ機運が高まるのは自然なことです。しかし、いま見られる賃上げ機運をめぐっては、いくつも気がかりなことがあります。中でも3点挙げたいと思います。
まず、“〇%アップ”という賃上げ方針を目にすることが多いこと。一見すると公平なようですが、問題は配分方法です。もし一定比率で賃上げし、その比率で一律配分すると、高収入の人の方が多く賃上げされることになります。しかし、物価高でより困窮しているのは賃金が低い人たちです。
仮に年収1000万円の人と300万円の人に、賃上げ分5%がそのままの比率で一律配分された場合。1000万円の人の賃上げは1000万円×5%=50万円であるのに対し、300万円の人は300万円×5%=15万円です。一律5%で配分すると、年収300万円の人の方が1000万円の人より35万円も少なくなります。
一方、30万円など一律定額配分にすれば高収入の人ほど賃上げ率は下がります。しかし高収入の人とそうでない人との金額差は変わりません。それでも賃上げがないよりは望ましいことですが、物価高で苦しむ社員の支援という観点からするともどかしさを感じます。
次に、賃上げ機運は高まっているのに実質賃金がずっと下がっていることです。先述の通り、現金給与総額自体は前年同月比でプラスを続けています。これは、賃上げ機運が高まってはいても、賃上げ額は不十分だということです。残念ながらいまのところ、賃上げは国民を豊かにする水準には至っていません。
確かに、人手不足対策においては一定の効果が見込めます。賃上げできる会社はできない会社より、働き手から選ばれやすくなるからです。ただ、いまの賃上げ水準では国内の人材争奪戦で優位になれても、海外企業との競争において優位とまでは言えません。
最後に、賃上げの陰に隠れて、賃金以外の条件にあまり焦点が当たっていないことも気がかりです。働き手が職場を選ぶ際に重視する条件は賃金だけではありません。仕事のやりがいや成長機会、休みの取りやすさ、テレワークの可否といった柔軟な勤務形態など、働き方や仕事そのものの魅力なども、就業先を選ぶ上で重要な要素になります。
どれだけ賃金が高くとも、残業過多やパワハラなどブラックな環境であれば社員は定着せず、求職者も入社したいとは思いません。賃金は大切ですが、社員によっては賃金以上に重視する条件もあるはずです。
整理すると、いまの賃上げ機運には配分方法、賃上げ額の低さ、賃金以外の条件整備という観点で懸念があります。では、これらの懸念とどう向き合えばよいのでしょうか。
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