サントリー「天然水」 ブランド名統一の裏に、地震の教訓:企業が備えるBCP(2/3 ページ)
サントリーは、BCP対策の一環として20年11月、それまで地域ごとに異なる商品名をつけていた天然水を「サントリー天然水」という名称に統一した。なぜ、自然災害に備えて商品名を統一する必要があったのか。
「サントリー天然水」にブランド名を統一した理由
サントリーの天然水ブランドは当時、「南アルプス白州工場」(山梨県北杜市)、「九州熊本工場」、「奥大山ブナの森工場」(鳥取県江府町)の3工場体制で生産していた。商品は「南アルプス」「奥大山」「阿蘇」と、地域ごとに異なる名前を冠し、販売も南アルプスは東日本、奥大山は近畿、中国、四国、阿蘇は九州――といった具合にエリアごとに分かれていた。「その地域で育まれたおいしい水をその地域の人々に届けたい」(担当者)といった考えがあったという。
一方で、ミネラルウオーターが社会インフラの一つともいえる商品に成長する中、エリアごとに別々の名称で限定販売していると、特定のエリアで災害など不測の事態が発生した際に、供給が遅れる恐れがある。
こうした事態を防ごうと、サントリーは、熊本地震が発生する16年4月以前から、天然水ブランドの商品名の統一、あわせてJANコードの一本化の検討を進めていた。
JANコードとは、消費者にとってもなじみのある、商品についたバーコード(商品識別番号)のことを指す。商品を識別するための番号であるため、商品ごとに番号は異なる。ブランド名を統一するとなれば、当然ながら同じ番号に統一する必要がある。
JANコードの一本化を構想する過程で、熊本地震は発生した。阿蘇の天然水の生産がストップし、サントリーは、販売エリアの異なる南アルプスの天然水を九州エリアに供給することで何とかカバーした。
小売店の中では、これまで扱ったことのない南アルプスの天然水を納品するためには、新たな登録作業が必要となり、販売の切り替えに時間を要することになったという。小売店の規模によっても異なるが、一般的にはこうした登録作業には1週間から10日前後を要するともいわれる。
熊本地震の被災経験は、JANコードの統一に向けてより具体的に検討を進めていくきっかけの一つになったという。
サントリーは、20年11月から「サントリー天然水」に順次商品名を統一、JANコードを一本化した。販売切り替えに要していた時間が短縮され、安定した供給が可能となった。「南アルプス」「奥大山」「阿蘇」といった水源名は商品名の下に記載。21年からは「北アルプス信濃の森工場」(長野県大町市)が稼働し、4つ目の水源名となる「北アルプス」が加わった。
「一つの商品名(JANコード)に対して、水源ごとに異なるパッケージが存在する点は、前例の少ない取り組みでしたが、安定的な供給の実現という目的を全国の流通・お得意先に理解・共感してもらえたことにより、実現に至りました」と担当者は話す。
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