宇都宮のライトライン、東側の成功と西側延伸が必要な理由:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/7 ページ)
栃木県宇都宮市と芳賀町にまたがるLRT「ライトライン」が好調だ。路面電車としては75年ぶりの新規開業で、開業から5カ月で予想の1.2倍の約190万人が利用した。4月1日のダイヤ改正で所要時間短縮、通勤通学時間帯の増便、最混雑時間帯の快速運転を実施の予定で、宇都宮駅西口以西の延伸計画も動き出す。
車線が減るならいっそホコ天にしてしまえ
宇都宮市西口駅前の大通りは車線が少ない。ここにライトラインを敷くと自動車用車線は1車線だけになってしまう。再開発計画で少しは拡幅できるとはいえ、全区間は難しい。そこで宇都宮市は大胆な計画を立てた。宇都宮駅前から宇都宮地方裁判所までの約2キロメートルをトランジットモールにするという。
トランジットモールは「歩行者天国」のようなもの。秋葉原などで実施される歩行者天国は緊急車両以外のクルマをすべて通行止めにする。これに対してトランジットモールは公共交通機関だけ通過可能とする。欧米ではLRTと組み合わせたトランジットモールが見られ、日本でも群馬県前橋市、兵庫県姫路市などでバスの通行のみ許可するトランジットモールがある。それを宇都宮市はLRTで実現させたい。
道路から締め出されるマイカーやバス、タクシーなどからは反発があるだろう。周辺の商店なども集客に影響する。新たな懸念であるし、反対する市民団体にとっては好材料だろう。東口側のライトライン建設には強い反対派がいた。赤字になると市民の負担が増える。自動車が渋滞するなどだった。構想から実現までは2度の市長選があり、反対を掲げる候補は落選しているけれど、そのうち1度は6000票差まで追い詰めている。
反対派の主旨は「(ライトラインは)公共交通の体系を複雑化し、車の走行などに利便性を損なう」「『LRTを基軸とするのでなく』、路線バスで発展できる」としているので、もともとライトライン建設の政策には相容れなかった。しかし、東側の成功で反対派の懸念は払底されてしまった。しかし西側こそ宇都宮市の中心であり、トランジットモール化について、反対派は同じ主旨の公開質問状を提示していた。
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