人が育たないと会社が育つこともない
──マネーフォワードは3つの重点テーマのひとつに「Talent Forward(社員の可能性をもっと前へ)」を掲げるほど、人材を重視しています。人の成長が会社の成長につながるという信念はどこからきているのでしょう?
石原さん: 逆に「なぜそう思わないんでしょうか?」と問いたいくらいです。私たちはITの企業なので、固定資産に投資すればあとはうまくいく、というようなビジネスモデルではありません。人が育たないと会社が育つこともないのではないでしょうか。
──経営合宿でも毎回議論するほど、経営陣の皆さんが人事を重視する姿勢で一致しているのはなぜでしょうか?
石原さん: 社長の辻が最初からそういう考え方なんです。ですから自然と、人を大事にするというマネーフォワードのスタイルに共感し、かつリーダーとしての振る舞いができる人が経営陣になっている、ということだと思います。
サーベイでは「目標を設定しない」
──人的資本開示の義務化に伴い、人的資本に関する指標の扱いに悩む企業も多いようです。マネーフォワードは独自の指標を開示されていますが、どのようにデータを取り、モニタリングしているのでしょうか?
石原さん: いくつかのサーベイがあり、一番ボリュームがあるのが半期ごとの「MFグループサーベイ」というものです。基本的にはグループの全従業員が対象で、包括的に組織の健康状態を知ることをメインの目的にしています。そのため、会社、所属する本部、本部の下の部、そして経営陣に対しての評価を聞くような項目を盛り込んでいます。多様性に関する項目を増やそうとか、新たに始めた他のサーベイと被る内容は削ろうといったことが多少ありましたが、基本的にはあまり内容を変えずに推移を見られるようにしています。
他には月次で行うパルスサーベイがあり、これは組織ではなく個人のコンディションを把握し、成長を後押しするためのものです。また、入社したばかりの人には週次のサーベイも実施しています。目的に応じて、質問項目や結果の公開範囲を決めています。
──人事戦略の上で、特にこの指標の改善に注力していこうと決めていることはありますか?
石原さん: それは、その時々の人事の課題によって変わりますよね。例えば、毎月の1on1について、以前は「1on1で上長からきちんとフィードバックを受けているか」みたいなことを全社の指標にしていました。今はそれがある程度できるようになり、そのフィードバックをテキストとして残すことが課題になっているので、それを指標にしましょうとか。その時々の課題に合わせて半期の目標を立て、それを追っていくようなやり方をしています。
──サーベイの結果を、社内ではどのように活用しているのでしょうか。
石原さん: MFグループサーベイについては、システムにログインすれば全員がその結果を見られるようにしています。
ただ、数値だけを見ても「これはつまりどういうこと?」というのが分かりづらいと思います。そこで「前回からどんな変化があり、今回の課題はどういうことで、だから経営としてはこう考えていて、このように変えていきます」といったメッセージを、まずは全員が参加するオンラインの会議で伝え、ダッシュボード上でも見れるようにしています。
その上で、各本部として次にどういう目標を立てていけばいいのかを、必要であれば人事に相談できる機会も設けています。一緒にダッシュボードを見て、「他の部署と比べると少し低く出ているこの項目について、どういうことができるか」などと一緒に考えたりします。そのようにして、ただ経営陣が結果を見るだけでなく、各事業部が改善に向けてアクションが取れるような工夫をしています。
──サーベイについて、この数値を目指してください、という目標設定があるのですか?
石原さん: 全社のレベルでは最低限の数値目標を設定しています。しかし、それを押し出しすぎると本音でサーベイに回答することができなくなってしまう可能性があります。
例えば「目標は4.1に対してこの部は3.9だったので、マネジャーの評価を下げます」みたいなことをすると、すごく変な方向に向かってしまうと思うんです。「少なくとも全社平均レベルまで持っていく」みたいな目標ならありだと思いますが、事前に数値目標を決めることには慎重になるべきだと思っています。
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