中国テンセントクラウド幹部「日本市場でゲームを柱に売上を倍増させる」:赤船が席巻
中国テンセントのクラウド、ゲームビジネスなどを担うテンセント・クラウド・インターナショナルのポ−シュ・ヤン(楊寶樹)上席副社長は、日本市場での事業拡大に強い意欲を示した。
黒船ならぬ“赤船”が、日本のクラウド、ゲーム市場を席巻するかもしれない――。
中国のIT大手テンセントのクラウド事業であるテンセントクラウド(Tencent Cloud)を提供するテンセントジャパンは3月27日、東京・渋谷で「TENCENT CLOUD DAY JAPAN 2024」を開催した。同社の海外でのクラウド、ゲームビジネスなどを担うテンセント・クラウド・インターナショナルのポ−シュ・ヤン(楊寶樹)上席副社長は、日本市場での事業拡大に強い意欲を示した。
「日本市場はアジアの中でも最も急成長している国の一つでキーとなるマーケットだ。この傾向は今年も続くと思うので、ゲームやクラウドサービスを中心に売上高を昨年の倍に拡大したい」(ヤン上席副社長)
テンセントはゲームやSNS、クラウドビジネスを中心に、この10年間で急成長している。テンセント・インターナショナルの売上高の約3割が日本市場にあるため、さらなる売り上げ増を狙う。2022年は前年比で倍増、23年は同80%増を記録する急成長を遂げている。
ヤン上席副社長は、同社が提供するクラウドサービスの特徴について他社のクラウドサービスとの差別化を強調した。
「25年間にわたりB2C(消費者向け)のサービスをしてきた実績があり、月間アクティブユーザー数が数十億人になっている。テンセント自らが作ったクラウドサービスをテンセントが提供しているので、単なるクラウドサービスではない。プロダクトごとにマネジャーやエンジニアがいるので、クライアントの要望や質問には直接答えることができる」(ヤン上席副社長)
売上増を達成する具体策としては、アジア市場を中心に特に日本で伸ばしたい考えを明らかにした。
「ゲームが一番大きな収益源だ。ゲームとエンターテインメントのクラウドサービスを柱にして、アジアパシフィックのクラウドナンバーワンを目指したい。日本はゲーム市場が大きいので、ゲームに特化して注力したい。日本のゲーム会社であるバンダイナムコアミューズメント(中国業務) やドリコムとも提携している。コロナ禍後の短期間に日本企業とも良い関係を築けたので、これをマイルストーンとして、今後も関係を強化していきたい」
任天堂やバンダイナムコと提携
日本市場での成長の手法として、パートナーとの協力関係の重要性を指摘し「パートナーに寄り添う形で事業展開を進める。日本市場でもパートナーと一緒になってマーケットを拡大したい」と強調した。
テンセントは既に、バンダイナムコと13年に業務提携し、人気の「NARUTO−ナルト−」のオンラインゲームを共同開発した。任天堂とも19年に業務提携し、中国市場に進出できていなかった任天堂はゲーム機「Switch」を中国で販売できるようになった。中国のゲーム市場は、主にPCやモバイルで遊ぶものが主流なため、任天堂としてはテンセントの販売網を使って、ゲーム機市場を伸ばそうとしている。
さらに外国の企業が中国に進出する際に、情報通信のサービスでサポートできることもテンセントの強みであることも指摘した。「メルセデスベンツやBMW、製薬企業の中国でのオペレーションでお手伝いをしている。日本企業では小売り企業の分野でサポートしている」と述べた。
AIの有効活用にも前向きな姿勢を示した。
「パートナーと密な関係を築く中で、AIによるソリューションの適切な方向をしっかりと見定めていくことが必要だ。中国のスマートフォンユーザーの95%以上が何らかの形でテンセントのプロダクトを利用しており、テンセントが自社開発したAI技術がこれらの製品を通じて活用されている。AIソリューションを構築して幅広く展開していきたい」
クラウドサービスを拡充する上で欠かせないデータセンターについては「現在、日本で2つのデータセンターを稼働させている。業務が拡大すれば増設することもあり得る。中国ではデータセンターの電力はソーラーで賄っているが、日本では難しい。このため、複数のデータセンターユーザーがセンター内のスペースを共有する『コーロケーション』を考えたい」と述べた。
ヤン上席副社長は、米国シリコンバレーで17年働いた後にテンセントに入社して、今年で16年になり、現在、海外部門の責任者を務めている。
テンセントは1998年に設立された中国のIT、インターネット関連サービスの大手企業(広東省深圳市)で、アジア最大規模の売り上げを誇る。代表者は馬化騰氏。ソーシャルメディア、エンターテインメント、ゲーム、クラウドサービス、広告など幅広い事業を展開している。主要な商品としては、中国最大のSNSプラットフォームであるWeChat(微信)などがある。日本で一番有名なテンセントのゲーム作品は「王者栄耀」。2011年にテンセントジャパンを設立。13年にバンダイナムコ、19年に任天堂と業務提携している。
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