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ドトールの制服、リニューアル 役員がわざわざ「拾いに行った素材」を使用

ドトールの約2万着の制服が2024年12月にリニューアルする。役員がわざわざ石垣島にまで「拾いに行った素材」が特徴的でおもしろい。ドトールコーヒーと制服デザインを担当したオンワードコーポレートデザインに話を聞いた。

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 ドトールコーヒーで働く全国2万人の従業員が着用する「制服」が2024年12月に新しくなる。約8年ぶりのリニューアルだ。

 社内で機能性向上の声が多く聞かれたことから、ストレッチ素材を使用したり、トップスにトリコット(ニット素材)を採用したりして、着やすさや通気性などを高める工夫を施した。


ドトールは約8年ぶりに制服をリニューアルする(画像:ドトールコーヒープレスリリースより)

 その他にもカラーリングを意識したり、ジェンダーレスなデザインに仕上げたりなど趣向を凝らした。中でも特徴的なのは、とある素材を使うために、わざわざ役員が石垣島にまで渡っていることだ。

 ドトールコーヒーと、同社の制服のデザインを担当したオンワードコーポレートデザインに話を聞いた。

ドトール役員が石垣島で拾った「素材」が制服に転生

 ドトールコーヒーの新しい制服の最もユニークなポイントは「石垣島の漂着ペットボトルの生まれ変わり」であるということだ。漂着ペットボトル由来の糸を一部使用し、制服を作り上げた。

 オンワードコーポレートデザインは約2年ほど前から漂着ペットボトル由来の糸を制服などに使用する取り組みを進めてきた。その糸は、同社と取引のあった繊維商社・豊島が海岸や河川などで回収したペットボトルを分別・粉砕・洗浄し、再生させているものだ。


漂着ペットボトル由来の糸を使用したTシャツ(画像:以下、オンワードコーポレートデザイン提供)

 今回のドトールコーヒーでの制服採用は、2023年3月にさかのぼる。オンワードコーポレートデザインとドトールコーヒーの両社でワークショップを実施。社員アンケートを基にした機能性向上などはもちろんのこと、地球環境問題に興味・関心を持ってもらうことで、従業員満足度向上につなげる狙いで、漂着ペットボトル由来の糸を使用した制服の制作に至った。

 その約9カ月後の2023年12月、ドトールコーヒーの役員を含む社員6人は石垣島の地を踏んでいた。ただ用意された制服に腕を通すのではなく、石垣島のビーチに放置された漂着ペットボトルを拾うところからスタートしたのだ。

 約1500本のペットボトルを回収。2万着を用意する関係で導入時期は2024年12月になるものの、体験という価値が付与された唯一無二のユニフォームに仕上がる予定だ。


石垣島でドトール社員たちが拾った漂着ペットボトルなどのプラスチック

 オンワードコーポレートデザインの小林秀邦氏は今回の取り組みについて「実はペットボトルを再生した素材を使用するやり方は以前からあります。自動販売機の横のゴミ箱に入っているペットボトルを回収して使用するというものです。今回の取り組みのユニークな点は、地域の活動団体や地方自治体と連携して、これまであまり回収が進んでこなかった日本各地の海岸や河川に散乱しているプラスチックごみを使用しているところです」と話す。

漂着ペットボトル由来の糸、通常の約2倍

 オンワードコーポレートデザインによると、漂着ペットボトル由来の糸は通常の約2倍ほどの価格だという。組み合わせる素材や付属、製品量な工賃などによって最終的な金額は変動するものの、決して気軽にスイッチできるわけではない。

 同社の小林氏は「当社は企業の制服のデザインなどを担当しているのですが、2021年ごろから環境を意識した取り組みを各社さんが模索している実感はありました。2020年から漂着ペットボトルを拾い、それ由来の糸を制服に使用する提案をしてて、やっと芽が出始めました」と振り返る。


漂着ペットボトルを運ぶ様子

 「漂着ペットボトル由来の糸を使用した制服」が全国規模のチェーン店で導入されたことは、資源循環の可能性を示す好事例となるだろう。機能性やファッション性などと環境保護が両立できることが示されたことで、他社への波及も期待できるかもしれない。

 オンワードコーポレートデザインの沼田隼努氏は、学校制服への導入可能性について以下のように話す。

 「当社は学生服なども手掛けており、漂着ペットボトルを拾うビーチクリーン活動とそこから制服を作るプロジェクトを修学旅行のパッケージとして提案するのも面白そうだなと考えています」


ビーチクリーン活動と学生服制作をセットにした修学旅行など提案の幅は広がっていきそうだ(画像:ゲッティイメージズより)

 調査によると、世界の海に存在しているといわれているプラスチックゴミは合計で1億5000万トンに上るという(参照:McKinsey & Company and Ocean Conservancy、2015)。さらに、世界経済フォーラムの試算によると、少なく見積もっても年間800万トンが新たに流入している。

 廃棄プラスチックゴミに新たな価値を与えることは、経済活動と環境保護を両立させる一つの手段として市場に浸透しつつある。さらに需要が高まれば、衣類以外にも生まれ変わっていくかもしれない。

 「これも漂着ペットボトル由来?」──そんな驚きに対面する機会も増えそうだ。

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