「ニッセン売却」が象徴するセブン&アイEC構想の大失敗 カタログ通販に残された利用価値とは:小売・流通アナリストの視点(1/4 ページ)
5月9日、セブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン&アイ)は、子会社の総合通販企業ニッセンホールディングスの全株式を売却すると発表した。これは同社が推し進めた、ネットをベースに連携させるオムニチャネル戦略「オムニ7」の失敗を意味する。EC全盛時代に、売却されるニッセンにはどんな価値が残されているのだろうか。
5月9日、セブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン&アイ)は、子会社の総合通販企業ニッセンホールディングスの全株式を売却すると発表した。セブン&アイは、グループのポートフォリオの見直しを進めており、昨年は百貨店そごう・西武を不動産ファンドに売却。直近の2024年2月期決算説明会においても、祖業イトーヨーカ堂を中心としたスーパーストア事業の分離独立方針(株式上場後、持分法適用水準の株式保有が前提)を発表したばかりである。
「グローバルコンビニ企業を軸とした、食を中心とする世界トップクラスのリテールグループとしての成長戦略」という大方針の下、セブン&アイはすでに高級セレクトショップのバーニーズジャパン、スポーツ用品のオッシュマンズを売却。振り返ると、セブン&アイが売却した企業の多くは、2000年代の小売大再編時代にM&Aによりグループに加わっている。
「オムニ7」構想の置き土産
セブン&アイには2023年2月期まで「百貨店・専門店事業」というセグメントがあり、主要企業の業績が開示されていた。しかし、そごう・西武の売却に伴って2024年2月期ではその他事業に括られたため、直近の状況は分からなくなった。
百貨店・専門店事業の主要企業とは、そごう・西武、赤ちゃん本舗、セブン&アイ・フードシステム(デニーズ)、ロフト、ニッセンホールディングスの5社を指す。2013年以降の業績をみるに、どの企業も営業収益、売り上げともに伸び悩んでいたことが分かる(図表1)。
かつて、セブン&アイは多様な小売業態をグループ化し、ネットをベースに連携させるオムニチャネル戦略「オムニ7」という構想を持っていた。リアル店舗、EC、カタログ通販、ソーシャルメディアなどの複数のチャネルをシームレスに連動させ、いつでも、どこでも同じように利用できる環境を作る、といった構想だ。そのため、グループ内にさまざまな小売業態があっても不自然ではない。
しかし、オムニ7はネットやECにおいて存在感を出せず、2023年1月に閉鎖された。その結果、セブン&アイ内に多様な小売業態がある必要性も失われてしまったのだ。
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