「KADOKAWA」「ニコ動」へのサイバー攻撃、犯人と交渉中の暴露報道は“正しい”ことなのか:世界を読み解くニュース・サロン(2/5 ページ)
KADOKAWAグループのニコニコ動画などがランサムウェア攻撃を受けた事件について、NewsPicksが交渉内容を暴露する記事を出した。交渉中のタイミングで報じることは、企業の判断や行動を制限しかねない。対策にめどが立った段階まで待つべきではないだろうか。
「公益性」があるのはどんなケースか
まず筆者の現時点(6月25日)での結論を先に言うと、今回はNewsPicksが少し先走りしたように思う。
NewsPicksが早い段階で、ドワンゴ内部のリーク情報を詳しく取材できたことには賛辞を贈りたい。情報をどこよりも早くつかんで伝えることこそメディアの正義だと言えるからだ。
ただ記事掲載の判断は、また別の側面を考慮しなければいけなくなる。筆者としては、NewsPicks側の記事掲載が正しかったとすれば、それは公益性という点が重要になると考える。メディア側の表現の自由が保障されるには、公益性が重要な要素の一つだからだ。
筆者は自身のYouTubeチャンネルでも今回のサイバー攻撃についての話をしているが、ニコニコ動画というメディアは通信やコミュニケーションのインフラの一部にもなっている。国会中継や記者会見などもニコニコで視聴する人が少なくないし、ニュースなどを見ている人も多いからだ。
であれば、そんな企業がサイバー攻撃で1カ月以上にわたって停止するという混乱について、きちんと報道することは意義がある。
ただし、それは企業の復旧のめどが立った、つまり、対策がある程度終了した段階でもいいのではないかとも考える。夏野社長が言う「このタイミングで出すこと」というポイントだ。というのも、今回は、KADOKAWAも子会社のドワンゴも、最初からサービス停止の理由について誠意を持って説明していたし、その後さらに「ランサムウェア攻撃」の被害に遭っていることも公表していた。社長やCTOなどが動画で説明を行い、現在対策していて金銭的な補償もするので復旧を待ってほしいと伝えていた。
正直に言えば、筆者も発表前にランサムウェア攻撃であるという情報は取材で得ていたが、まだまだ復旧できない状況も聞いていたので、断定的に発信することは控えた。同社が明らかにしたその他の情報を加味して分析し、YouTubeなどで発言した。
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