オムロン、資生堂も……増える「黒字リストラ」 働き手には“チャンス”なのか?(3/3 ページ)
2024年に入り、早期退職者を募集する企業が増えている。人員整理はネガティブなイメージ一色だったが、今は人員整理を行う企業にかつてほどの悲壮感は感じられない。「リストラ」のイメージが以前よりネガティブでなくなったのはなぜなのか、それは働く人にとって本当にチャンスなのか、考えてみたい。
ミドル世代が次のキャリアを考える時代に
しかし、今は状況が違う。求人情報サイト「ミドルの転職」を運営するエン・ジャパンによると、2023年に同サービスを通じて転職した35歳〜59歳の転職者数は2018年比で2倍以上、中でも50代は4倍に増加している。転職前後の年収も2023年は40代の57%、50代の45%で増加している。良い条件での転職先が見つけやすくなったことも、この年代の転職を後押ししていると見られる。
その理由としてエン・ジャパンの渡邊雄太氏(人材紹介サービス「エン エージェント」 ミドルエージェント部 責任者)は、人材不足のために採用対象の年齢層を広げる会社が増えていることを挙げる。さらに、コロナ禍で若年層の求人がストップした時期にも、部課長クラスや営業のスペシャリストなど40〜50代の求人は比較的継続されていたと振り返る。難しい経営環境の中で、事業を引っ張っていくミドルの力が必要だと判断されたのだろう。
加えて渡邊氏は、今の40〜50代がそれより上の世代と比較して転職への抵抗感が少ないことも指摘する。その理由の1つに、1999年の職業安定法、労働者派遣法の改正により、この20年ほどで人材エージェントのビジネスが活発化したことがある。「転職」が当たり前の選択肢と捉えられるようになったのが、ちょうど今の40代や50代の層からだったというわけだ。
そのうえで、人手不足で企業の側の意識が変わり、個人の側も定年や年金支給年齢の引き上げなどを前に、より長いキャリアを考えるようになった。そんな事情が合わさって「35歳の壁」が崩れ、ミドル世代の流動性が高まっているのだ。
このような状況の下、40代や50代で早期退職者募集の対象となったときに、「ここにいても待遇が下がるだけだったら、経験を生かせる次のステージを探そう」と考える人が出てきているのだろう。
常に「自分が対象になる可能性」に備えよ
ミドル世代の転職への抵抗感が薄くなっているとはいっても、突然の早期退職募集に対して、進むべき道を自信をもって選べる人はまだ少ないだろう。
リクルートとIndeed Hiring Labが共同で世界11カ国の転職者を対象に行った「グローバル転職実態調査 2023」によると、日本の転職者はキャリアの自律度も、将来の自分のキャリアについての関心やビジョンも、諸外国に比べて低い水準にある。
直近で転職を経験した人でさえこうなのだから、日本の労働者全体となると、自分のキャリアは自分で決める、決められる、という意識はもっと低いかもしれない。
しかし、気候変動や国際情勢の影響でビジネスの構造も大きく変化していくだろうこれから、勤めている会社がリストラを始める可能性は誰にでもある。「もしこの会社を辞めるとしたら、その後はどうする?」を常に考えておかなければいけないだろう。
筆者は、企業が好きなときに社員を辞めさせることを肯定しているわけではない。人員整理が行われる会社は、残る人にも「次は自分かも」「この会社は大丈夫なのか」といった不安やモチベーションの低下をもたらすし、部下に退職勧奨する管理職や人事担当者の精神にもダメージを与える。やり方によっては、その後の組織がガタガタになってしまうこともある。
かといって、昭和の時代のように終身雇用を約束できる状況にもない。だとしたら、人員整理をするしないにかかわらず、普段から社員のキャリア自律度を高めるサポートを、企業としてもしていく必要があるだろう。
やつづかえり
コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年より組織に所属する個人の新しい働き方、暮らし方の取材を開始。『くらしと仕事』編集長(2016〜2018)。「Yahoo!ニュース エキスパート」オーサー。各種Webメディアで働き方、組織、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。著書に『本気で社員を幸せにする会社』(2019年、日本実業出版社)。
Yahoo!ニュース エキスパート記事一覧はコチラ
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
休日に業務連絡「気になるけど返せない」が一番危険? 「つながらない権利」の実現性は
諸外国ではいわゆる「つながらない権利」、つまり業務時間外にメールや電話などの仕事の連絡を拒否する権利を法制化する動きが広まっている。日本はどうかというと、顧客第一主義が根強い上にサービス残業も横行する状態で、「時間外だから」といって上司や顧客からの連絡を無視などできない――そう考える人が多いだろう。日本において「つながらない権利」を行使できる社会を実現させるには、どうしたらよいだろうか?
「ホワイトすぎて」退職って本当? 変化する若者の仕事観
「ホワイト離職」現象が、メディアで取り沙汰されている。いやいや、「ホワイトすぎて」退職って本当? 変化する若者の仕事観を考える。
窓際でゲームざんまい……働かない高給取り「ウィンドウズ2000」が存在するワケ
「ウィンドウズ2000」「働かない管理職」に注目が集まっている。本記事では、働かない管理職の実態と会社に与えるリスクについて解説する。
日本人はなぜこれほどまでに「学ばない」のか 背景にある7つのバイアス
学びの習慣があまりにも低い日本の就業者の心理をより詳細に分析すると、学びから遠ざかる「ラーニング・バイアス(偏った意識)」が7つ明らかになった。日本人はなぜこれほどまでに「学ばない」のか。
「休めない日本人」がこれほどまでに多いワケ
「必要以上に頑張らない」は悪いこと? 熱意あった若者がやる気をなくすワケ
退職するわけではないけれど、仕事への熱意も職場への帰属意識も薄い――という状態が「静かな退職(Quiet Quitting)」が注目されている。日本においても、会社員の7割以上が静かな退職状態だという調査結果がある。やる気をもって入社した若者たちが静かな退職を選ぶことを防ぐにはどうしたら良いのか、考えてみよう。



