羽田空港連絡鉄道の現在と未来 最も近い大田区の行方は?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/6 ページ)
現在、羽田空港の航空機発着回数は年間約49万回。空港連絡鉄道は、東京モノレール羽田空港線と京急電鉄空港線があるが、「羽田空港第3ターミナル駅」開業時の年間発着回数は30.3万回だった。発着回数に合わせた空港アクセスの増強として、空港連絡鉄道の増強には現在3つの計画がある。
JR東日本「羽田空港アクセス線」臨海部ルート、西山手ルート
2024年7月24日、NHKは「JR東日本 羽田空港アクセス線臨海部ルート 2031年度開業目指す」と報じた。予定ではなく、目標だ。実現すれば東山手ルートと同時開業となる。
臨海部ルートは、羽田空港から東京貨物ターミナルと東京臨海高速鉄道りんかい線経由で新木場駅に結ぶ。羽田空港駅と新木場駅の所要時間は約20分だ。
りんかい線はもともと国鉄時代に貨物線として京葉線と一体的に建設された。終点は東京貨物ターミナルだ。しかし貨物列車の減少によって京葉線を旅客線に転用し、新木場から東京駅地下を結んだ。
残された新木場〜東京貨物ターミナル間を転用して第三セクターの東京臨海高速鉄道が設立された。その名残として、りんかい線の車両基地が東京貨物ターミナルに隣接している。羽田アクセス線とりんかい線の線路をつなぐだけだから、工事費は3ルート案で最も低い。
さらにいうと京葉線の一部だったから、京葉線とも線路がつながっている。京葉線に直通運転すると、東京ディズニーリゾートがある舞浜駅や、幕張メッセがある海浜幕張にも直通できる。海外からの観光客、出張客にも魅力的な路線だ。
ただし、京葉線に直通するためには、運賃の経由問題の解決が必要だ。例えば、東京駅から羽田空港駅で乗り換えて舞浜駅で降りた場合、IC乗車券は全区間京葉線経由と判断するため、りんかい線側に運賃が入らない。東京駅と舞浜駅であれば羽田空港駅のほうが遠回りだから選択肢に入らないけれども、新宿方面と舞浜方面で、りんかい線経由か東京駅乗り換えか判別できなくなる。
運賃問題が解決しない限り、臨海部ルートは新木場で打ち切り。改札機を通っていったん精算して京葉線に乗り換えてもらう。事情は分かったとしても、実際に線路はつながっているわけで納得しがたい。
西山手ルートもりんかい線を経由し、大崎から埼京線に直通して新宿・大宮方面を結ぶ。羽田空港駅〜新宿駅間の所要時間は約23分だ。
りんかい線経由という部分は臨海部ルートと同じだけれども、りんかい線の車両基地の分岐が新木場方向しかない。大崎方面へ向かう回送列車は東京テレポートでスイッチバックできる。しかし、羽田アクセス線直通列車が日中に高頻度でスイッチバックを行うと、りんかい線の運行に差し支える。
そこで、車両基地から大崎方面へ新たな分岐線トンネルをつくる。この部分の検討が必要になるため、開業時期は未定のままだ。
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