押し寄せる外国人観光客は、本当にカネを落としているのか:小売・流通アナリストの視点(3/4 ページ)
インバウンド客の迷惑行為に対する地元住民の苦情が、有名観光地で無数に発生している。この手の話では「写真を撮ったらそのまま帰ってしまって、カネを落としてくれるわけでもないのに迷惑だ」というニュアンスも多分に感じられる。現状、インバウンド需要は経済的に貢献していると、本当に言えるのだろうか。
各国の通貨と国別消費額を比較してみた
それにしても、なぜ訪日客数や消費額がこれほど急速に拡大しているだろう。日本が観光地として海外から高い評価を得ていることは大前提としても、最大の要因が円安にあることは言うまでもない。
ご存じの通り、ドル円相場は一時1ドル=160円に達するほど円安が進んだが、振り返ればコロナ前の2019年11月末ごろは109.45円だったのである。単純計算で146%ドル高円安となっているということだ。国中がざっくりいつでも3割引きセール実施中の状態なのだから、行かない手ははない。ソニーフィナンシャルグループの調査「グローバル経済・金利ウォッチ」によれば、インバウンド消費急拡大の要因として、円安要素が50%以上を占めているとしている。
インバウンド消費動向調査における国別消費額の2019年比増減率と、各国通貨の対円増減率をプロットしたのが図表4である。完全な相関性とまではいかないが、対円で通貨が強くなっている国ほど消費額が増えている、という傾向は見て取れる。
こうしたデータを踏まえると、今のインバウンド需要の急拡大は円安要因に支えられている部分は大きく、為替の環境が変われば急激に落ち込む可能性は高いだろう。実際、円相場は日銀の金利政策転換を受けて、2024年8月22日時点で145円と反転している。円安水準は行き過ぎであるという意見も聞くが、今後は日米金利差の縮小なども考えれば、より円高に修正されていく可能性もあるだろう。
8月の株式相場で過去最大の暴落が発生したのも、こうした為替への反応が敏感なマーケットにおいて、バーゲンセール状態だった日本株の割安感が失われるという要因も発端の1つだったという。円安が修正されることになれば、インバウンド消費においても、客数や消費単価は大幅に落ち込むことになるだろう。特にブランド品など高額品販売が中心の百貨店の売り上げは、かなり影響があるかもしれない。
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