押し寄せる外国人観光客は、本当にカネを落としているのか:小売・流通アナリストの視点(4/4 ページ)
インバウンド客の迷惑行為に対する地元住民の苦情が、有名観光地で無数に発生している。この手の話では「写真を撮ったらそのまま帰ってしまって、カネを落としてくれるわけでもないのに迷惑だ」というニュアンスも多分に感じられる。現状、インバウンド需要は経済的に貢献していると、本当に言えるのだろうか。
大手百貨店よりインバウンド需要を取り込んだ存在
百貨店大手もこの点は十分に認識済みであり、各社ともインバウンドの取り込みは怠らないものの、「一過性のものとして、安定的な売り上げ、収益基盤の強化に努める」と述べている。富裕層とインバウンドへの依存を強め、大衆離れを止められてはいない百貨店にとって、インバウンド沈静化後に富裕層一本足で戦略が組めるかどうか、考えておく必要がある。
さて、インバウンドの恩恵を受けている代表として百貨店を見てきたが、実は2023年度に、大手百貨店よりインバウンド需要を取り込んだ小売企業があることをご存じであろうか。ドン・キホーテを運営するパン・パシフィック・インターナショナル(PPIH)だ。
同社が先ごろ発表した2024年6月決算は、35期連続増収増益を達成、売り上げはセブン&アイ、イオン、ファストリ、ヤマダHDに次いで、5番目の2兆円越えを実現した。その中で、インバウンド売上が1175億円となり、百貨店を抑えて国内トップクラスとなったことも示された(図表5)。
ドン・キホーテは、訪日客のデスティネーションの1つとなっており、その独特の空間を楽しむとともに、安価な土産品を買う場としても定着しつつあるという。百貨店のように高額品ばかりに依存せず、インバウンド客に広く侵透しているドンキは、円安一巡後でも大きな落ち込みとはならないであろう。さすが2兆円企業になるだけある、と感心するばかりだ。
著者プロフィール
中井彰人(なかい あきひと)
メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
ウエルシア・ツルハが統合しても「業界の覇者」になれない理由 今後のカギを握る2社
業界トップのウエルシアと2位のツルハの経営統合で、ドラッグストア業界は騒然となった。実現すれば売り上げは2兆円超、次位となるマツキヨココカラをダブルスコアで引き離す圧倒的な規模を誇るグループが誕生することになる。
300円ショップ好調の裏で 「100円死守」なセリアが苦しいワケ
物価高を背景に、ディスカウント型のスーパーを利用する消費者が増えている。多くの消費者がより安いものを求める中、100円ショップ業界ではある意外なことが起きている。
首都圏で急増中のコスモス薬品 物価高を味方にした戦い方とは?
九州を地盤とする大手ドラッグストア「コスモス薬品」。九州でトップシェアとなった後は、店勢圏を東に向けて拡大し、今まさに関東攻略作戦を進行中だ。コスモスを躍進には、物価高を味方にした戦い方がある。
ディスカウント王者・オーケーの銀座進出が「勝ち確」と言える3つの理由
ディスカウントスーパーとして有名なオーケーが銀座にオープンした。実は、オーケーにとって銀座進出は「勝ち戦」ともいえる。それはなぜなのだろうか。
本当の「消費」といえるのか? 大手百貨店の増収増益を手放しで賞賛できないワケ
物価上昇に多くの消費者が苦労している一方、好調を報じられているのが百貨店業界だ。長年、売り上げの右肩下がりが続き、構造不況業種ともいわれていた上に、コロナ禍で甚大なダメージを受けた百貨店業界。本当に回復期を迎えているのか、その現状を見てみよう。


