ソフトバンク、株主優待コストに10億円 それでも“元が取れる”と見込むワケ(3/3 ページ)
「株式投資を、より身近に」――。“投資の民主化”が、通信業界に広がりつつある。
PayPay経済圏強化へ 株主優待で描く青写真
株式分割と同時に注目を集めているのが、新設される株主優待制度だ。普通株式を1年以上かつ100株以上保有する株主に対し、PayPayポイント1000ポイント(1000円相当)を贈呈する。
「優待内容を決める際、さまざまな選択肢を検討した」と吉岡氏は語る。「結果として、当社グループの経済圏拡大にも寄与するPayPayポイントが最適だと判断した」
この判断の背景には、徹底した市場調査があった。「アンケート調査を実施し、ポイント、カタログギフト、通信料割引などの選択肢を用意した。結果は驚くほど明確で、PayPayポイントがダントツの人気だった」と吉岡氏は説明する。
さらにPayPayポイントを通じた経済圏の拡大という戦略的意図もある。「PayPayは単なる決済サービスではない。保険や証券、銀行サービスなど、さまざまな金融サービスとの連携も進んでいる」と吉岡氏。「株主の皆さまにPayPayポイントを通じて、これらのサービスをより深く理解し、利用してほしいと考えている」
PayPayポイントを選択した背景には、経済的な考慮も働いている。「優待コストは10億円くらいで見ている」と吉岡氏は明かす。「一方で、1円の増配を実施すると48億円のコストがかかる」
ソフトバンクの現在の株主構成は、親会社のソフトバンクグループが約40%、国内機関投資家と海外機関投資家がそれぞれ約20%、そして個人投資家が約20%を占める。「個人投資家の比率が大きく変わることは想定していない」と吉岡氏は言う。
その上で、「より多くの方々に株主になってもらい、当社のサービスを体験してほしい」という。ソフトバンクは今回の施策により株主数の増加を見込んでいるが、具体的な目標数は明らかにしていない。現在の株主数は約86万人だが、NTTの例などを見ると、今回の施策により2倍程度には増加するとみられる。
ただし、株主数の増加は管理コストの上昇という課題も伴う。さらに、株式分割によって1単元(100株)の価格が下がることで、新たな問題が生じる可能性もある。実際、NTTでは株式分割後、約500万円分の株式取得で「私をNTT取締役に」という株主提案が行われた。これは、株主提案権の行使に必要な300単元(3万株)の取得が容易になったことが背景にある。
この点について吉岡氏は「確かにコスト増は避けられない。しかし、それ以上のメリットがあると考えている。例えば、株主とのコミュニケーション強化のため、特設サイトを立ち上げ、積極的な情報発信を行う予定だ。また、メールアドレスの収集も進め、より効率的で密接な株主とのやり取りを目指す」と狙いを話した。
ソフトバンクの株式分割により、これまで約20万円必要だった最低投資金額が2万円程度に下がる。より多くの人にとって手の届きやすい株式になりそうだ。一方で、米国経済の不調を背景に、国内の株式事情も乱高下が続いている。今回の施策が、若者を中心とした新たな投資家層の開拓につながるか、そして日本人の投資に対する意識を変えるきっかけになるか。その行方に注目が集まる。
筆者プロフィール:斎藤健二
金融・Fintechジャーナリスト。2000年よりWebメディア運営に従事し、アイティメディア社にて複数媒体の創刊編集長を務めたほか、ビジネスメディアやねとらぼなどの創刊に携わる。2023年に独立し、ネット証券やネット銀行、仮想通貨業界などのネット金融のほか、Fintech業界の取材を続けている。
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