東海道新幹線60周年の節目に、さらなる未来を予想してみた:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/6 ページ)
2024年10月1日、東海道新幹線は運行開始から60周年を迎えたが、2034年、10年後の東海道新幹線はどうなっているだろうか。リニア中央新幹線が開業しているとして、さらなる未来を予想してみたい。のぞみ12本ダイヤ、新駅構想、「N700S」の後継車両、自動運転について、考えてみた。
のぞみ12本ダイヤはどうなるか
リニア中央新幹線が開業すると、現在の「のぞみ」の需要の一部がリニア中央新幹線に移るため、ダイヤに余裕が生まれる。つまり、「のぞみ」が減り、「ひかり」または「こだま」が増える。これは規定の方針で、JR東海は静岡県内の新幹線駅にポスターも掲示している。約束と言っていい。すぐにでも具体的な本数を挙げてくれたら静岡県民からの期待も上がるところだ。しかしJR東海はダイヤ編成の詳細を明らかにしない。そんなことをしたら当時の知事が「だったら今すぐにやれ」といい出しかねなかったからだ、と私は思っている。
その代わり、国土交通省が2023年10月に「リニア中央新幹線開業に伴う東海道新幹線利便性向上等のポテンシャルについて」という資料を公開した。「リニア中央新幹線の大阪開業により、(中略)輸送量が約3割程度減少する可能性があり、東海道新幹線の輸送力に余裕が生じる見込み」「この輸送力の余裕を活用して、東海道新幹線静岡県内駅における列車の停車回数が現状の約1.5倍程度増加する(中略)、静岡県内に停車する「ひかり」についても増加する余地がある」と説明した。静岡県の経済波及効果は2037〜46年の累計で1679億円、雇用効果は約15万6000人だ。
ただし、上の文書はリニア中央新幹線の「新大阪開業後」の話である。静岡工区の遅れを踏まえると、実現するのは2045年以降になると見込まれる。2034年10月には到底間に合わない。
2034年にリニア中央新幹線が品川〜名古屋間で開業した場合、「のぞみ」利用者のうち、東京・品川と名古屋駅の相互の利用者しかリニア中央新幹線に移転しないだろう。2023年12月の報道によると、JR東海はリニア中央新幹線の品川駅を地下約40メートル、名古屋駅を地下約30メートルに設置し、東海道新幹線からの乗り換え時間を最短3分にする考えだ。エレベーターやエスカレーターを多数設置するという。
この数値は、2010年11月にJR東海が国土交通省の交通政策審議会中央新幹線小委員会で示した資料にもある。乗り換え標準時間は3〜9分。ただし、こちらでは「余裕時分を見ても15分後に接続列車を設定すれば乗継は十分可能」としている。乗客の誰もが俊足ではない。そもそも、敦賀駅の北陸新幹線乗り換えの現状を見ると、3〜9分は現実的ではなさそうだ。
私のような新横浜駅ユーザーはどのような選択になるか。現在の「のぞみ」は、新横浜〜名古屋間をノンストップで1時間16〜22分で運行する。品川駅でリニアに乗り換えた場合は、新横浜〜品川間が10分。余裕時間込みの乗り換えに15分、品川〜名古屋間が40分、合計1時間5分だ。短縮時間がわずかで乗り換えが面倒だし、まず逆方向へ進む抵抗感もあって、東海道新幹線に乗り続けるような気がする。
東京・品川から新大阪以遠、例えば岡山、広島、博多を行き来する人はどうか。品川〜名古屋間は東海道新幹線で約2時間、リニア中央新幹線で約40分。名古屋乗り換え15分を加算して、約1時間の時間短縮ができる。この1時間短縮のために乗り換えるか。これはありそうな気がする。乗り換えナシのほうが楽だけど、夜に乗って終電までに家へ帰りたいとか、朝10時の会議に間に合わせるなら1時間遅く出発できる。航空機と競争できる鉄道の所要時間「4時間の壁」の距離が伸びる。
さらに名古屋止まりのリニア中央新幹線は、新たな利用者を獲得するはずだ。名古屋〜東京都西部の利用者は橋本駅が便利だし、東西どちらからも甲府、飯田へ行くならリニア中央新幹線が早い。もちろん新横浜からもリニア中央新幹線のほうが早い。
ただしこれは新たな需要だ。リニア中央新幹線は、東海道新幹線の乗客を大きく奪わない。つまり、東海道新幹線のダイヤに大きな変化はない。10年後の東海道新幹線は、東京〜新大阪間の「のぞみ」のうち、1時間当たり2本が「ひかり」「こだま」に1本ずつ振り分けられる程度ではないか。
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