東海道新幹線60周年の節目に、さらなる未来を予想してみた:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/6 ページ)
2024年10月1日、東海道新幹線は運行開始から60周年を迎えたが、2034年、10年後の東海道新幹線はどうなっているだろうか。リニア中央新幹線が開業しているとして、さらなる未来を予想してみたい。のぞみ12本ダイヤ、新駅構想、「N700S」の後継車両、自動運転について、考えてみた。
新駅構想は進展するか
「リニア中央新幹線開業後、ダイヤに余裕ができる」という期待の下では、かねてより構想された新駅誘致の動きが活発になりそうだ。しかし、リニア中央新幹線と同時に開業するとは考えにくい。前出のように、東海道新幹線からリニア中央新幹線へ利用客が移行するとすれば、それは新大阪開業後になるだろう。東海道新幹線のダイヤに余裕ができるのはそのあとだ。
新駅の候補は2つある。1つは神奈川県寒川町の倉見地区だ。JR相模線と交差する辺りで、JR相模線の倉見駅がある。新横浜駅と小田原駅のほぼ中間に当たる。新横浜駅からも小田原駅からも約25キロメートルだ。近すぎるような気がするけれども、小田原〜熱海間は約19キロメートル、三島〜新富士間は約24キロメートル、掛川〜浜松間は約27キロメートルという前例がある。そもそも新横浜〜小田原間の約51キロメートルが長かった。東海道新幹線では最長駅間距離だ。
寒川町は南に茅ヶ崎、北に海老名がある。JX金属、日産工機をはじめとする工業集積地だ。新幹線駅誘致は1975年から始まり、2002年には新幹線駅を前提とした「ツインシティ計画」を進めている。相模川対岸の平塚市と連携し、東海道新駅から続くツインシティ橋で2つの地域を結ぶまちづくりの計画だ。
さらに神奈川県はJR相模線沿線を相模ロボット産業特区として、国の地域活性化総合特区の指定を受けた。その特区で、新幹線倉見新駅を「南のゲート」、リニア中央新幹線の神奈川県駅(橋本駅)を北のゲートと位置付けている。東海道新幹線とリニア中央新幹線にとって集客効果のある地域づくりを目指している。倉見新駅は、建設費を神奈川県や自治体が負担する「請願駅」となる。
JR東海はダイヤの過密を理由に、東海道新幹線に新駅をつくらない方針だった。しかし2010年に、JR東海としても検討していると報じられた。リニア中央新幹線開業後の東海道新幹線の位置付けを考え始めたようだ。
もう1つの新駅構想は、静岡工区問題で何度か引き合いに出された「静岡空港駅」だ。静岡空港の直下を東海道新幹線が通っているため、ここに駅をつくれば静岡県の主要都市に直結する空港アクセス鉄道になる。静岡空港を首都圏第三空港にする構想もあり、東京と新幹線で直結できる利点もある。しかし、掛川駅から約15キロメートルという近さが問題だ。こだまがこの区間を走ると、前後の列車の速度も下がってしまい、東海道新幹線全体の速度低下を招く。
静岡県は新駅設置について調査費を計上したこともあり、現在もあきらめていない。前知事はこの新駅を、リニア中央新幹線静岡工区着工許可の取り引き材料にしようとした。しかしJR東海は新駅について応じなかった。ところが、鈴木知事とJR東海の丹羽社長との面会で、丹羽氏は門前払いせず「課題はあれども、県の話をうかがい、考えを受け止めながら対話する」と応じた。
JR東海は、東海道新幹線について「東名阪を結ぶ国家の柱を預かる」ことに誇りと責任を持っている。だから東海道新幹線至上主義ともいえる施策をとってきた。なにか新しいことを実施する場合は「地域にとって」よりも「国にとって」が優先する。新駅を増やすことが国にとって必要かを考えたとき、そこに東名阪の速達性を奪う選択肢はなかった。
しかし、東名阪の速達性をリニア中央新幹線が担ってくれるなら、東海道新幹線には新たな役目が必要だ。JR東海は東海道新幹線のあり方について、まさに可能性を検討しているともいえる。だから前社長時代まで頑なに拒否した新駅についても、柔らかな態度を取れるようになったといえそうだ。
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