絶滅寸前の「夜行列車」に復活の兆し、インバウンドの追い風で加速か?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
2024年7〜9月に臨時列車として運行された夜行特急「アルプス」が、夜行急行列車「アルプス」の復活だと話題になった。寝台車はなく座席のみの編成だが、ほぼ満席の仕上がりだったため、秋の臨時列車にもなった。この特急「アルプス」が、夜行列車復活のきっかけになるかもしれない。
夜行列車が復活できない理由を覆した
便利な手段はもっと便利な手段に置き換えられる。夜行列車の需要が低下した理由は、便利ではなくなったからだ。戦前戦後は主な移動手段が鉄道だけだったし、列車の速度も遅いから、夜通し走る必要があった。つまり“しかたなく夜間運行する列車”だった。
夜行列車を存続させるために、国鉄は2つの方法を採った。低価格化と高付加価値化だ。夜行快速列車を増やす一方で、寝台列車の居住性を向上した。「星の寝台特急」というキャッチフレーズのもと、三段寝台を二段寝台に、個室も増やし、食堂車も備えた。
ところが、もっと便利な移動手段が現れた。新幹線網の拡大と、2000年の航空自由化だ。新規参入航空会社と既存航空会社が競争し、国内線航空券の運賃が下がった。ほぼ同時期にビジネスホテルが増えた。1泊当たり5000円もあれば、清潔で、ユニットバス付きのホテルに泊まれる。2004年にアパホテルは合計室数が1万室を超え、2005年に東横インは100店舗を超えた。その後の大規模展開はご存じの通りだ。
寝台特急の寝台料金は最も安いB寝台で6500円だった。座席列車に比べると定員が少ないから、このくらいの追加料金を取らないと採算が合わない。それでもホテルに比べて設備は見劣りする。夜行列車で行くくらいなら、前日に移動して一泊したほうがいい。
一方で、夜行快速列車のライバルは高速夜行路線バスだ。居住性は列車に劣るけれども、格安で「夜行便の有効時間帯」にピッタリはまる。
夜行列車が廃れた理由は、「もうからない」「寝台料金は高くて不評」「車両が老朽化しても、もうからないから新車をつくれない」、そして「夜間の保守作業に支障する」だった。
しかし、特急「アルプス」がそれらを覆す。「座席列車の特急化で日中の特急と同じ収入になる」「三連休前日という日を選べば、夜間も運行可能」と実証して見せた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
寝台特急「北斗星」の食堂車が授かった新たな使命
2015年3月に運行を終了した寝台特急「北斗星」。その食堂車が埼玉県川口市に移設され、レストランとして開業した。鉄道ファンのオーナー社長が趣味で始めた……と思ったら違った。その背景には高齢化社会と地域貢献に対する真摯(しんし)な思いが込められている。
「青春18きっぷ」包囲網が完成? JR各社の乗り放題きっぷがそろった
「青春18きっぷ」が発売される。片道71キロメートル以上の往復で元が取れ、LCCや夜行バスでワープしてから使うのもいい。だが、ほかの交通手段と組み合わせるなら「青春18きっぷ」にこだわる必要はない。「青春18きっぷ」に代わるきっぷをつくるなら、筆者には心待ちの大本命がある。
寝台特急「カシオペア」が復活、次は東北・北海道新幹線の高速化だ
東京と札幌を結ぶ寝台特急「カシオペア」が早くも復活する。2016年3月、北海道新幹線の開業を理由に廃止された列車が、なぜ北海道新幹線開業後に復活できたか。その背景を考察すると、北海道新幹線の弱点「東京〜新函館北斗間、4時間の壁」も克服できそうだ。
ドクターイエローはなぜ生まれ、消えていくのか
「幸せの黄色い新幹線」こと、ドクターイエローが引退する。JR東海とJR西日本の発表によると理由は老朽化。そして今後は新しいドクターイエローはつくらず、営業車両N700Sで計測を実施するという。そこでドクターイエローの誕生から引退までを振り返り、営業車両での計測について考えてみたい。
年末年始、なぜ「のぞみ」を全席指定にするのか 増収より大切な意味
JR東海とJR西日本が、ゴールデンウィーク、お盆休み、年末年始の3大ピーク時に「のぞみ」を全列車指定席にすると発表した。利用者には実質的な値上げだが、JR3社は減収かもしれない。なぜこうなったのか。営業戦略上の意味について考察する。
次の「新幹線」はどこか 計画をまとめると“本命”が見えてきた?
西九州新幹線開業、北陸新幹線敦賀延伸の開業時期が近づいている。そこで今回は、新幹線基本計画路線の現在の動きをまとめてみた。新幹線の構想は各県にあるが、計画は「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」として告示されている。これと費用便益比、各地のロビー活動の現状などから、今後を占ってみたい。
