絶滅寸前の「夜行列車」に復活の兆し、インバウンドの追い風で加速か?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
2024年7〜9月に臨時列車として運行された夜行特急「アルプス」が、夜行急行列車「アルプス」の復活だと話題になった。寝台車はなく座席のみの編成だが、ほぼ満席の仕上がりだったため、秋の臨時列車にもなった。この特急「アルプス」が、夜行列車復活のきっかけになるかもしれない。
外的要因の後押しもある
夜間に保守作業のできる時間が減る問題は解決に向かっている。保守係員の不足や負担軽減に向けて、保守用機械の自動化が急速に進んでいる。東海道新幹線は営業車両で軌道と電気、信号の検査を実施し、夜間の検査作業を減らしている。
在来線においても省力化が進む。例えば、トンネルは夜間に徒歩で壁の点検をしている。これをいったん高精細の動画で撮影し、日中に事務所で解析して異常箇所を発見する。その座標を記録して、再度トンネル内で点検車両を走らせたときに、異常箇所を光ポインターで示す。あらかじめ日中に対処方法が決められるため、トンネル補修のスピードが上がる。目視に頼らず機械の目を使うため、保守員の人数も減らせたという。
夜行列車を運行し収入を増やせるとなれば、保守の自動化とスピードアップは、単なるコストと人員の削減ではなく、利益に直結する案件になる。
訪日観光客の急増で、ビジネスホテルも含めて宿泊価格が急騰している。飛行機や新幹線で前日入りしてホテル泊というパターンが使いづらい。夜行バスはじめ長距離路線バスは、運転手不足で減便傾向にある。JRにとっては、コロナ禍の損失を取り戻すための施策が必要で、夜間に車庫で眠る電車を走らせれば、昼間の特急と同じ収入が得られそうだ。
寝台列車など高付加価値列車は、クルーズトレインとなった。特急「アルプス」の成功は、座席夜行列車が再評価されるきっかけになったはずだ。まずは三連休前の金曜日。大型キャンペーン開催地。この辺りから座席夜行列車が復活しそうだ。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICETHREETREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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