上司と部下の会話、なぜかみ合わない? “残念パターン”から探るコミュニケーションの深め方:問いの設定力(3/3 ページ)
グロービスで、動画学習サービス「GLOBIS 学び放題」の事業リーダーを務める鳥潟幸志氏の著書『AIが答えを出せない 問いの設定力』をもとに、上司・部下の間でよくある「残念な会話」を例として取り上げ、問いの設定力に対する具体的な考え方、能力の高め方について解説する。
“思考の癖”を知る。問いの設定力を磨く第一歩
2つの「残念な会話」の例を通して、どのような問いを投げかければよりよい会話ができるのか見てきました。ここで、全体像を整理しましょう。
まずは視点です。筋の良い問いを設定する力は、“5つの視点”で整理することができます。
1:イマ・ココで答えるべき「問いの設定力」
2:適切な順番に沿った「問いの設定力」
3:ゼロベース思考の「問いの設定力」
4:問いを進化させる「問いの設定力」
5:「自分らしさ」を再発見するための「問いの設定力」
前述の例では、よりよい会話を生むヒントとして1、3の視点を紹介しています。ほかの視点も非常に重要なので、著書を参考にしてみてください。
マトリックスに示した横向きの矢印は、一般的な思考プロセスのパターンです。問題の定義から始まり、要因、解決策へとステップを踏んでいきます。一方、縦向きの矢印は、自分が直接コントロール可能な問題に注力すべきなのか、チーム領域の問題を考え始めるべきなのかといった「視座」を示しています。
しかし実際は、必ずしもこの順番で考えてはいないのではないでしょうか。
どうしても「会社は〜だから」という視点だけで考えてしまう、最初に解決策から考えてしまう……それこそが、あなたの“思考の癖”です。例えば、メンバーが退職を申し出た場合、自分自身がどういう問いを持つのかを考えてみましょう。
多いのは、まず「どうやったら引き止められるのだろう?」というHOWの問いです。この問いから出てくる解決策は、引き留めるというアクションにつながります。けれど「なぜ退職をしたいのだろう?」というWHYの問いが設定できると、退職の原因を聞こうとするでしょう。
また、視座を変えると「この人が退職することで、チーム運営にどのような影響がでるのか?」という問いが出てきます。組織文化へのフィットの問題であれば仕方がない、と判断できるかもしれません。つまり、問いの設定次第で、その後の打ち手や取るべき行動が全く変わってくるのです。
視座(縦軸)と視点(横軸)の掛け合わせによって、さまざまなレイヤーで問いを立てることができますが、最初に考えるべき問いとしておすすめするのは、マトリックス上の一番左下、「『自分』にとって、何が『問題』なのか?」という問いです。
チームや会社の目線から考え始めると、「会社が悪い」といった他責の思考になってしまいがちです。そうではなく、自身の責任の範囲から考えることで、自分のすべきことをクリアにできます。
メンバーが退職を申し出た例でいうと「Aさんの退職が、自分にとってどのような意味があるのか?」という問いになります。さらに横軸(視点)を進めて「要因」を考えることで、「解決」である「組織のリーダーとして、自分はどのような行動をとるべきか」という問いにたどり着くでしょう。
この「自分」×「問題」から出発する思考方法は、部下との相談や議論においても活用できます。まずは「自分自身にとって何が問題なのか考えてみよう」と促し、ナビゲーションしてあげられるとよいのではないでしょうか。
上で紹介したような図をヒントに「相手はいまどこの話をしているのか」「自分はいま何を問うべきか」といったことを考えてみましょう。新しい発見と手応えが得られるはずです。日常の仕事シーンから、ぜひ実践してみてください。
GLOBIS 学び放題 事業リーダー/グロービス経営大学院教員 鳥潟幸志(とりがた・こうじ)
埼玉大学教育学部卒業。株式会社サイバーエージェントでインターネットマーケティングのコンサルタント経験を経て、デジタル・PR会社のビルコム株式会社の創業に参画。取締役COOとして新規事業開発、海外支社マネジメントなど経営全般に携わる。グロービス参画後は、社内のEdtech推進部門にて「GLOBIS 学び放題」の事業リーダーを務める。グロービス経営大学院や企業研修においてプログラムの講師なども担当。著書に『AIが答えを出せない問いの設定力』(クロスメディア・パブリッシング)がある。
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