「牛丼500円時代」の幕開け なぜ吉野家は減速し、すき家が独走したのか:差を広げた“判断”の差(5/7 ページ)
牛丼の価格戦争――。この言葉を目にすると「懐かしいなあ」と感じる人も多いかもしれないが、いまや「500円時代」の足音が聞こえてきた、といったところでしょうか。牛丼チェーン3社の業績を見ると、明暗がわかれているようで。
柔軟な対応を見せたゼンショーHD
その後、2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災により、多くの企業と同様、牛丼3社も大きな影響を受け、2009年〜13年ごろまでは厳しい状況が続きました。
牛丼価格の推移を見ると、価格へのテコ入れはリーマンショック以降に始まりました。このころ吉野家は380円と価格維持した一方で、すき家は2009年に330円、そして2010年に280円に下げ、シェアを取りに行くという戦略に打って出たのです。
2006年、牛丼並盛の価格は、吉野家が380円、すき家と松屋が350円で、その差は30円でした。しかし、2010年には、吉野家が380円、松屋が320円、すき家が280円と、最大で100円の差が出ていました。
この価格差から、すき家が積極的な戦略をとったことが分かります。松屋もすき家に追随して下げましたが、すき家ほどの価格にはしていませんでした。ここにも、各社の経営の意思がはっきりと出ており、興味深い事象だったと感じます。
すき家は牛丼並盛の価格を据え置き、大盛やサイドメニューを調整することで、客単価を上げることに成功しました。また、メニューを豊富にしてファミリー層の獲得を目指したのも特徴的でした。商品の価格は、経営にとって非常に重要な要素ですが、値上げにおいても各社の違いが表れていました。
加えて、資本市場との付き合い方にも各社の違いが表れていました。ゼンショーHDは2007年と2014年に増資を行っており、直近の2023年にも増資をしています。一方の吉野家HDは、筆頭株主の伊藤忠商事が保有していた全株式を買い取りました。その後、2015年に増資をするにとどまっています。
ここからも、調達した資金を積極的に投資し、事業を成長させようというゼンショーHDのマインドが感じられ、吉野家や松屋などとは明らかに違うことが見て取れます。また、実際にゼンショーHDはきちんと必要な資金を集められていることから、3社のなかで投資家から最も期待されていると感じます。
このようにして、価格戦争勃発当初は好調だった吉野家が減速し、BSEをうまく乗り切ったすき家の一強状態となったのです。
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