「牛丼500円時代」の幕開け なぜ吉野家は減速し、すき家が独走したのか:差を広げた“判断”の差(6/7 ページ)
牛丼の価格戦争――。この言葉を目にすると「懐かしいなあ」と感じる人も多いかもしれないが、いまや「500円時代」の足音が聞こえてきた、といったところでしょうか。牛丼チェーン3社の業績を見ると、明暗がわかれているようで。
「長期的」な目線が“あだ”に
さまざまな時代背景を見ながら、牛丼3社の牛丼並盛の価格や、財務諸表を分析してきました。これまでお伝えした通り、牛丼3社の環境を一番大きく変えたのは、BSEだったと感じます。
BSEによって、特に影響を受けたのが吉野家でした。BSE発生当時、吉野家は他国の牛肉を仕入れるということを基本的に行わず、「これまでの牛丼の味にこだわる」ことを貫きました。当時この姿勢は世間から支持されていましたし、かくいう私も吉野家の牛丼が好きで、その判断を見てうれしく感じたのを覚えています。
一方で、すき家と松屋は、オーストラリア産の牛肉を取り入れ、味に変更を加えるなど、オペレーションを柔軟に変更して対応しました。
吉野家は「米国産の牛肉を使い味を維持する」という判断をしたために、割高な米国産牛肉を使わざるを得なくなり、コストが高止まりしたことで価格競争という面で苦しくなったと考えられます。
BSE発生当時の吉野家のプレスリリースには、米国産以外の牛肉に対応するためには、たれの調合を変える必要があること、そして「長期的な」視点に立ってみると、米国産の牛肉を使い続けて、これまでの味にこだわるのが良いと判断したということが書かれています。
しかし、この「長期的」という目線が“あだ”となったと感じます。すき家や松屋のように、オーストラリア産の牛肉で何とか同じ味が出せないか研究していたほうが、「長期的に」見ると良かったのではと感じてしまいますし、結果的にそれが今の財務状況を表しています。
同様の事例は、他の業界にもありました。東日本大震災の際、タイヤなどの製造に不可欠な「カーボンブラック」をつくっていた企業の東北工場が被災し、生産ができなくなってしまったのです。この影響で、タイヤメーカーは安い中国製のカーボンブラックを使わざるを得なくなりました。
それまでは、日本企業との間には粒子設計に圧倒的な差があるため「使い物にならない」という声や、「調整の手間がかかるのでコスト的に一緒になってしまう」という意見があったそうです。しかし、どうにか使えるようにタイヤメーカー側が努力したところ、最終的にこれまでの製造に一工程加えることで、コストを下げつつほぼ同じ性能が出せるようになったのです。
結果的に、被災した工場が立て直され、無事元通りカーボンブラックが生産できるようになったものの、「安いほうでできる」ことが分かった一部の顧客は、戻りきらない状況が続きました。
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