「30代がいない!」危機──選ばれる企業と捨てられる企業、明暗分けるポイントは:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)
次世代を担うはずの30代社員が「足りない!」と嘆く企業が増えています。若手に選ばれず、老いていく──そんな危機を抱える企業はどうしたらいいのでしょうか。今の30代が直面する「ストレスと誘惑」に対し、企業ができることは?
「30代が輝く職場」の一つの答え
実際、若く優秀な人材に裁量権を持たせやすい小さな集団では、30代──特に女性の30代が大活躍しているのです。
例えば、テレビやラジオなどの「番組」という集団です。
メディアの世界は封建的というイメージがありますが、現場は実力の世界です。ただし「現場を踏む」経験は実力を肉付けする極めて大切な要素でもあります。そのため20代ではかなり難しいですが、30代になると一気にディレクター、チーフディレクター、アシスタントプロデューサー、プロデューサーとヒエラルキーを上っていく道が開けます。
当然、お給料も増えます。番組のバックヤードには、ベテランの社員がいますからサポートもあります。最近は「男性より女性プロデューサーの方が多いのでは?」と感じるほど、若い世代の女性が増えてきました。雑誌や書籍などの現場も同じような傾向があります。
メディアの現場はかつて、男性・ベテランが多かった世界です。しかし、30代になると社会性も身に付くので、出役や書き手とのケアやコミュニケーションもうまくなりますし、自分がぺえぺえを経験しているので、若いスタッフへの指示もうまく出せます。それらは全て、現場の評価につながるわけです。
こうして、新しいことへチャレンジし、能力を発揮し、評価される機会がうまく構築できている職場で働く30代は、「今の仕事」を「生涯の仕事」にしていくキャリア中期のステージを自信をもって進むことができます。
「魔法の杖」はない
また、今の若い世代は驚くほど堅実で、安定した将来を求めます。
ある企業では、離職率の高かった契約社員を厚生年金に入れ「会社側が負担してあなたの年金を増やします」という説明を繰り返し行ったところ、離職率が大幅に減ったそうです。また、ある企業では定年までの賃金カーブをきちんと説明し「40代、50代で、これくらい増える」と具体的な数字を示したところ定着率が高まり、管理職を希望する社員も増えました。
前述の日経ビジネスの調査でも、会社に対する不満を聞いたところ、トップは「賃金・待遇」(66.7%)、「人材配置」(61.1%)、「人材育成」(50.0%)と続いています。
ただし、お金は大切だけど、お金だけで会社を決めているわけではありません。「これをしたら解決」という、魔法の杖はありません。
あなたの会社で、何をどうすれば30代不足を解消できるか。経営者やリーダー層のみなさんは、ここまで書いたことを参考に自分たちで考えてみてください。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)がある。
2024年1月11日、新刊『働かないニッポン』発売。
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