「30代がいない!」危機──選ばれる企業と捨てられる企業、明暗分けるポイントは:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/3 ページ)
次世代を担うはずの30代社員が「足りない!」と嘆く企業が増えています。若手に選ばれず、老いていく──そんな危機を抱える企業はどうしたらいいのでしょうか。今の30代が直面する「ストレスと誘惑」に対し、企業ができることは?
30代の「節目ストレス」と「転職への誘惑」 企業ができることは?
まず、お話ししたいのは「30歳」という年齢についてです。
私たちは「将来なりたいもの」を夢見る幼少期からスタートし、学生時代を謳歌したのち、就職活動を経て就職します。その後は40〜50年もの歳月を「働くこと」に時間を費やし、さまざまなキャリアを経験し、やがて退職の時期を迎え、終止符を打つ。このキャリア人生のそれぞれのステージを通過する際に遭遇するのが、「節目ストレス」と呼ばれるものです。
30歳前後がまさにその一つ。キャリアの初期ステージから中期への移行期です。
社会人以前には「イメージの世界」だった働くという行為を、実際に経験し、仕事が生活の一部になる。そして仕事が「私」という存在の土台なり、「本当に自分のやりたい仕事、自分にあった仕事って、何なのだろう」と迷うようになる。30歳前後にぶつかる節目ストレスの正体は「生涯自分が関わっていく仕事を模索する壁」です。
もちろんなかには壁をスルリと通り抜け、迷うことなく「今やってる仕事」を続けられる人もいます。しかし、「このままでいいのだろうか」「もっと違う自分がいるんじゃないだろうか」という己の声が聞こえてきて、あいまいな不安にさいなまれる人の方が多いのです。
かくいう私もその1人です。新卒時、あこがれて就職した国際線の客室乗務員を辞め、波乱万丈のキャリア人生のスタートを自分から切ってしまったのですから、「あれは若いからできたこと」などと思うこともしばしば。当時は、結婚による寿退社、海外への留学、外資系の航空会や他の職種への転職など、30歳を前に新たなライフステージに飛び立っていく同期たちもいて、彼女たちをうらやむ気持ちが、私のあいまいな不安をますます強めていたように思います。
今の世の中は、私が30歳前後だったその頃と比べものにならないくらい、転職のハードルが下がっています。ワーキングマザーは当たり前、男性の家事や育児も当たり前、ベンチャーで起業できる環境も整備されてきました。「30代になったら、いい転職先が少なくなるんで」と奇妙な“転職圧”にさいなまれて辞める20代もいるほどです。
転職をすると環境が変わり、自分も変わった“気分”になる。変わったように見える同級生や同期がうらやましい──。そんな他人へのジェラシーも、転職熱を高めているのかもしれません。
このような状況にある30歳前後の社員に、辞めてほしくない企業はどうするべきでしょうか。求められるのは、社員と正面から向き合うこと。これからのキャリアやキャリアパスについて話す、これからのライフステージに役立つ情報を与える、などの手間を惜しまないことです。
その上で「新しいことにチャレンジできる機会」「能力を発揮する機会」「評価される機会」を用意し、彼ら彼女らをサポートするベテラン社員もつける。同時に、彼ら彼女らに「裁量権」を確実に持たせること。まかり間違ってもサポートするベテラン社員に忖度(そんたく)させる空気は作らないでください。
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