新幹線が止まったらどうなる? JR東海の事故対応は「仮復旧」も重視:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)
JR東海が11月7日、東海道新幹線の総合事故対応訓練を報道公開した。会場は静岡県三島市の「三島車両所」で筆者にとっては初めての見学だったが、「いままでの事故復旧とは考え方が変わってきている」と感じた。今回は訓練の模様と、私が感じた復旧に対する変化をお伝えしたい。
「乗客ファースト」という考え方
「架線断線発生時の復旧訓練」は今年初めて実施された訓練だ。従来は本復旧するまで乗客は車内で待機するか、全線で運休して乗客を避難させるかという選択になっていたという。「駅間に停車した列車からのお客さま救援訓練」がこれにあたる。
しかし本復旧は時間がかかる。だからまず仮復旧して乗客を最寄りの駅に送り届けて、その後に本復旧作業に取りかかる。本復旧より乗客を一番に考える。これは「沿線火災による光ケーブル損傷を想定した接続復旧訓練」も同じ考え方だろう。
「対向列車を用いた救援訓練」も乗客ファーストの考え方だ。列車の真横に列車を並べて救援する。最新型のN700Sはバッテリーを搭載しているため、給電が止まった場合も空調が使えるし、近隣駅までは自走も可能だという。見学できなかったけれども「長時間停電を想定したバッテリー使用によるサービス機器訓練」がこれだ。いくつかの選択肢の中から、救援に最適で、路線全体の運行の支障を最低限にとどめる方策を採る。
「総合事故対応訓練」とは別に、仮復旧、乗客ファーストという事例をもう1つ挙げておこう。
「特許情報プラットフォーム」によると、JR東海は2023年5月23日に、地震発生時にミリ波列車無線によって列車を停止するシステムを出願している。ミリ波列車無線は、従来の漏洩同軸ケーブルによる列車無線を置き換えるシステムで、最大1Gbpsの大容量通信を実現する。すでに東海道新幹線の全線で導入が決まっている。
従来は一定深度の地震を検知した場合、送電を停止して列車を停止させていた。しかし停電後の送電再開は時間がかかる。そこで、一定深度以上の地震を検知した場合、列車無線で緊急地震速報を発報し、送電を継続したまま列車側を緊急停止させる。点検が終わればすぐに復旧できる。これも乗客ファーストの考え方だろう。
訓練といえば、同じことを繰り返して精度を高めていくというイメージがある。しかし、この「総合事故対応訓練」は、新しい技術や手法を導入し、さらに乗客ファーストという考え方を加えた。東海道新幹線は東名阪を結ぶ経済の動線だ。止めてはいけない。止めたらすぐに動かさなくてはいけない。JR東海はそこに「誇り」を持ち「責任」を果たす。そのスピリットをこの訓練からも感じた。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICETHREETREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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