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プロレスのスーパースター中邑真輔に聞く 米WWEと日本の「ブランディング」の違い(1/2 ページ)

サイバーエージェントのプロレス事業子会社CyberFightは2025年1月1日、東京・日本武道館で「ABEMA presents NOAH “THE NEW YEAR” 2025」を開催する。世界最大の米プロレス団体「WWE」のUS王者であり、世界の現場を見てきた中邑選手に、日本のプロレスビジネスの課題と可能性を聞いた。

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 サイバーエージェントのプロレス事業子会社CyberFight(サイバーファイト、東京都新宿区)は2025年1月1日、東京・日本武道館で「ABEMA presents NOAH “THE NEW YEAR” 2025」を開催する。

 大会の模様はABEMAペイ・パー・ビュー(PPV、有料コンテンツに料金を支払って視聴するシステム)によって独占生中継する。5月にレポートした記事【武藤敬司「システム全体を変えたほうがいい」 サイバーエージェントがプロレスに本腰】の通り、サイバーエージェントグループのシナジーを生かしてプロレスビジネスを再興していく構えだ。


「ABEMA presents NOAH “THE NEW YEAR” 2025」はABEMAペイ・パー・ビューによって独占生中継(C)AbemaTV,Inc.

 本大会ではダブルメインイベントとして、GHCヘビー級選手権(王者)清宮海斗選手VS OZAWA選手と、世界最大の米プロレス団体「WWE」のUS王者として2年ぶりの凱旋となる中邑真輔選手VS佐々木憂流迦選手の試合を開催する。

 中邑真輔選手は2016年まで新日本プロレスのトップレスラーとして活動。その後WWEに拠点を移し、WWE US王者に輝くなど米国でも成功を収めたスーパースターだ。WWEの興行は世界165カ国で放映され、YouTubeのチャンネル登録者数はスポーツ関連では世界最多の1億超。世界のスポーツエンターテインメントの最高峰の舞台といえる。

 2023年には、総合格闘技団体UFC(アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ)の親会社、米エンデバー・グループ・ホールディングスと合併した。WWEとUFCが合併して設立された「TKOグループ・ホールディングス」の企業価値は2兆9000億円超とされ、業界で強大な影響力を有する。

 そのWWEの最前線に立ち、世界の現場を見てきた中邑選手に、日本のプロレスビジネスの課題と可能性を聞いた。


中邑真輔(なかむら・しんすけ)1980年、京都府出身。青山学院大学経営学部卒。2002年、新日本プロレスに入門。2003年、史上最年少、最短でIWGPヘビー級王者に就いた。2016年にWWEと契約。2018年、ロイヤルランブル優勝。現在WWE US王者(以下撮影:乃木章)

小中学生は入場料無料に その狙いは?

 中邑選手の来日試合が実現した背景には、2024年6月にサイバーエージェント副社長の岡本保朗氏が、CyberFightの社長に就任したことがある。新体制で「WWEとの関係強化」「新規協賛企業の獲得」「ABEMAでの生中継強化」を掲げており、WWEとの関係強化を着実に実行した形だ。


サイバーエージェント執行役員副社長で、6月にCyberFightの社長に就任した岡本保朗氏

 この新体制移行のタイミングで、CyberFight社が有するプロレス団体「プロレスリング・ノア」に、当時は総合格闘家だった佐々木憂流迦選手が加入していた。その佐々木憂流迦選手と中邑選手によるスペシャルマッチが実現した形だ。

 プロレスビジネスの課題は、若年層のファン獲得にある。今回の武道館大会では、小中学生の当日券観戦を無料とし、スマートフォン、携帯電話のみ撮影を可能とした。さらに1分以内の動画ならSNSへの投稿もできるようにしている。スマホがあればどこでも観られる配信環境で、SNS拡散による周知にも最大限に注力した形だ。プロレスリング・ノアの大会では以前から小中学生の入場料無料キャンペーンを実施していて、子どもや家族連れへの門戸を開いている。

 ライブエンターテイメントビジネスではスマホ撮影やSNSへの動画アップを制限する興行が多い。その中で、投稿をOKとした今回の施策は思い切ったものといえる。それだけサイバーエージェントグループが本腰を入れているということだろう。まだ大会を見たことのない子どもや親に連れられた子どもというターゲット層が、無料観戦によってプロレスと出会い、共感して魅力を発信していく。既存ファンだけでなく、将来ファンになってくれるかもしれない潜在顧客層に向けたカスタマージャーニーを設計しているのだ。


プロレスリング・ノアの大会では以前から小中学生の入場料無料キャンペーンを実施してきた(プロレスリング・ノアのWebサイトより)

圧倒的なビジネスモデルを築くWWE

 世界を見渡すと、プロレスで圧倒的なビジネスモデルを築いているのが、中邑選手の所属するWWEだ。ABEMA Primeが報じたWWEの2022年の収益構造を見ると、純収入が約1705億円。その約80%がメディア(テレビ放送・ネット配信など)で約1365億円、約10%がライブイベント(チケットなど)で約162億円、約10%がグッズなどの約178億円となっている。WWEは自社でコンテンツを制作し、その配信の権利を、テレビ局や配信メディアに売ることを最大の収益源としているのだ。コンテンツを自社で作り、映像などの権利を持つビジネスモデルに強みがある。一方、日本のプロレス会社は、これほど大規模なビジネスモデルは実現できていない。

 2025年1月からは米動画配信大手Netflixも、WWEのプロレス番組「RAW」を米国やカナダなどで独占配信していく。契約金は10年間で50億ドル(約7400億円)。WWEはグローバルな視聴者基盤を有しているからこそ、それを生かした大規模な放映権ビジネスを展開できるのだ。日本のプロレス会社もデジタル配信など、新たな収益源の開拓に取り組んでいるものの、現状グローバルな規模といえるほどには大きくない。日本企業がより強いビジネスモデルを構築できるかは、魅力的なコンテンツを制作して視聴者層を拡大できるかにかかっている。


Netflixも2025年1月、WWEのプロレス番組「RAW」を米国やカナダなどで独占配信する(NetflixのWebサイトより)

 ただ中邑選手は「ABEMAやプロレスリング・ノアにも、多くの人に見てもらえるコンテンツを作るポテンシャルの大きさがある」と話す。

 「携帯1つで大会を見られますから、(多くの人に見てもらう)きっかけさえあればという感じですね。あとはブランディングが重要だと思います。どういう風にプロレス自体を見られたいのか。それを考えてブランディングすることによって、もっと多くの方に見てもらえるようになるんじゃないかと思います」

 WWEは自社コンテンツを販売する強いビジネスモデルを有していることに加え、徹底的にブランディング戦略を考え、実行しているという。

 「日本のテレビ局がそうだったように、米国のテレビ局でも1990年代には(暴力的な)際どい演出も多かった。それがターゲットを子どもや家族、つまりファミリー向けに設定して、多くの人が見られるものに変えてきたんです。そして『WWEを見ることがスタンダードだよ』というプロモーションの仕方をしてきたと思います」


記者会見に臨んだ中邑選手

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