プロレスのスーパースター中邑真輔に聞く 米WWEと日本の「ブランディング」の違い(2/2 ページ)
サイバーエージェントのプロレス事業子会社CyberFightは2025年1月1日、東京・日本武道館で「ABEMA presents NOAH “THE NEW YEAR” 2025」を開催する。世界最大の米プロレス団体「WWE」のUS王者であり、世界の現場を見てきた中邑選手に、日本のプロレスビジネスの課題と可能性を聞いた。
中邑真輔「まだまだ多くのファンを獲得できる」 その方法とは?
中邑選手は日本の視聴環境の課題として「日本ではエンターテインメントが細分化している状況と(そのエンタメの)一つ一つのパイもそれほど大きいわけではない」ことを挙げた。
エンタメが細分化されることによって、制作側の見せ方が「コアなファン向け」になる傾向もある。例えばプロレスでいうと、日本には専門雑誌が多くあり、ファン歴の長い「コアファン」が業界を支えている状況だ。一方ファンでない層からはある意味でマニアックに見える部分もあり、ライトなファンが入りにくくなってしまう傾向も同時に存在してしまう。
中邑選手は、WWEの戦略成功の要因の一つに「観客に見てもらう」ためのブランディング戦略があるのではないかと話す。
先述した通り、WWEではターゲットを“家族全員”に設定し、見せ方の検討に力を入れている。米国のテレビ放送におけるレギュレーション(規制)にも厳密に対応しているのだ。
米国のテレビ番組では、どの年齢層に適切な内容なのかを評価したレーティングが付けられている。子どもも視聴することを前提とした規制であり、暴力や過度な性的表現、過激な言動が制限されるのだ。そのため流血などのトラブルが発生した場合、そのまま試合を放送していいのか、中断するのかも状況によって調整する。この背景にはWWEがスポンサーとの関係を維持したい狙いもあり、細部への配慮に余念がない。子どもや家族層も重要な視聴者としてターゲットにしているため、徹底的なブランディングを実行しているのだ。このような管理体制は、WWEの長期的なブランドイメージを保つための重要な要素といえる。
「例えば洋服でも、どの層をターゲットにするかによって売り方が違うのと一緒ですね。見せ方を変えている。WWEという商品をパッケージ化して捉えているのだと思います」
子どもが見に行きたいから、両親や祖父母が一緒に会場に足を運ぶ。WWEが米国以外で興業する際にも「普段は放映でしか見られないから、貴重な機会として見に行きたい」と思ってもらえるのだ。
中邑選手は「なんで(日本のプロレスは)子どもたちが来ないかといったら、まだまだ目に触れる機会が少ないからかもしれません」と話す。どんなエンタメであっても、コアなファンに加えて、いかにしてライトなファンを獲得し、リテンション(顧客維持)できるかがカギとなる。その意味で、小中学生の入場料無料キャンペーンによって、子どもや家族連れへの門戸を開くプロレスリング・ノアの戦略は理に適っているだろう。
そしてABEMAやプロレスリング・ノアを有するCyberFightなどのサイバーエージェントグループの強みは、プロレスという自社コンテンツと、日本でも有数の配信メディアを同時に有していることだ。それこそが、中邑選手が「ポテンシャルを感じる」と話す要因なのだろう。
「プロレスは海外挑戦しやすいジャンル」
中邑選手は「プロレスは他の競技、ジャンルに比べて、海外挑戦しやすいジャンルだと思う」と話す。
「オリンピック競技でも海外に行かないと大会があまりないような競技もある中、プロレスは国内で実力を証明したり人気を博したりすれば、今はネットによって活躍を見つけられて、海外からオファーが来たりすることもある。以前とは違ってソーシャルメディアもありますから」
中邑選手によれば「僕が若手の頃はそうはいかなかった」という。
「そういう意味では、僕(が海外に挑戦した年齢)よりも、もっと早い段階でチャンスが来るはずだと思います。日本のプロレスのレベルは世界的にも高いと言われています。基礎をしっかり学んで、高度な技術争いの中で揉まれるわけですから。あとは本人が海外に出たいと思うかどうかだけの話だと思う。チャンスはいくらでも転がっているんです」
日本武道館大会への中邑選手の参戦も、さまざまな状況の変化があってこそ実現したものだ。ABEMAやプロレスリング・ノアが、WWEと地道に関係を構築してきた努力のもとに成立している。中邑選手も「時代の変化の当事者として、僕自身も楽しんでいます」と意気込む。
中邑選手は常に変化を恐れない姿勢を貫いてきた。著書『新日本プロレスブックス 中邑真輔自伝 KING OF STRONG STYLE 1980-2004』(イースト・プレス)の中でも「“変化を恐れない”というのが、結果的に自分の人生に彩りを与えることになる」と話している。だからこそ米国への挑戦もいとわなかった。今回、中邑選手が来日して試合をするのも、さまざまなプロモーションに協力するのも、日本のプロレス業界を盛り上げたい思いがあるからだ。
「米国で生活するようになって次は9年目になります。ある種、日本にいれば、いいポジションでいられるでしょうし、そういう環境があるのかもしれません。でも、みんなもっと挑戦してみればいいと思います。もっと上を目指すとか、影響力を得るとか、日本に貢献したいという気持ちがあるならば、絶対にチャンスはある。一歩を踏み出すというか。いろんなものを見てきた身からすれば(挑戦するのに)何にも失うものなんかない。リスクなんかないよ、と思うんですよね」
世界に挑戦し、成功してきた中邑選手が元旦、2年ぶりにプロレスリング・ノアの舞台に立つ。ABEMAもプロレスリング・ノアも、中邑選手と同様に業界の慣習にとらわれず、変化を恐れずに挑戦し続けてきた。その姿勢は必ず実を結ぶはずだ。
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