増えゆく中高年社員、切り捨てるべきか? 2025年問題を乗り越えるカギは……:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/2 ページ)
2025年は、国民の5人に1人が75歳以上、3人に1人が65歳以上となる年。労働力不足が深刻化する一方で、中高年の社員が増え、人材活用の在り方に悩む企業も少なくありません。この2025年問題を乗り越えるために、どのような視点が求められているのでしょうか。
スポットの当たらない「50代女性社員」問題
ただし、一つだけあまりスポットが当てられていない問題があります。50代の女性会社員です。
今50代の女性会社員は、寿退社という言葉が当たり前に使われ、25歳を過ぎて未婚だと“クリスマスケーキ”と呼ばれ、同期の女性たちが一人、また一人と会社を辞めた時代を生き抜いた、働く女性のパイオニアです。
もちろん、1986年に男女雇用機会均等法が施行されたときに入社した、優秀でタフな女性の先輩たちが道を開いてくれたからこその存在であり、真のパイオニアとは言えないかもしれません。
それでもやはり、子育てと仕事の両立一つをとっても、育休も満足に取れなかった時代を生き抜くには覚悟と努力が不可欠でした。そんな女性たちこそが、今求められているはずなのに企業はその価値に気が付いていません。
私のフィールドワークのインタビューの協力者の1人は「結局、私たちは永遠に、ベンチを温めるだけの存在なんです」と嘆きました。
女性は昨年、上司と面談で「役職定年になったら、次は希望退職か」と言われてしまったそうです。女性は役職定年した後は後進育成に精を出すつもりで、キャリアカウンセラーの勉強を始めていたのに、突然の肩たたきです。
「私、突然のことで、何を言われているのか理解できず『定年まで後進を育成するため力になりたいし、会社に恩義もあるので雇用延長を考えている』と伝えたんです。ところが、上司のリアクションはありませんでした。その代わりに『ご苦労さま』と言われました。ショックでした」
「課長というリーダー的立場を経験させてもらったことは、会社に感謝しています。部下を持つこともできましたし、マンネン課長で横滑り人事ばかりでしたが、仕事を辞めたいと思ったことは一度もありません。なので、役職定年後は、後進育成に精を出すつもりだったのに、若い時は女だからと昇進できず、今度は『女だから』と肩叩きです」
「私は一度も女を言い訳にしたことはないし、仕事は好きでしたから、育児との両立も、泣きながら頑張ってこられたし、自分の能力をできる限り発揮したくて、残業もしました。なので、役職定年になっても、今まで通り頑張ろうと思っていたんです。でも、もう会社にとって私はいらないのです。そう考えたら、情けなくて。結局、私たちは永遠に、ベンチを温めるだけの存在なんです」
なんというもったいないことを、企業はしているのか。女性として、母親として、妻として、職業人として生きてきた彼女たちは実に柔軟に多様な価値観を受け入れるしなやかさを持ち合わせているのに、その価値に全く気が付いていないのです。
2025年問題のカギを握る、中高年女性の活躍
総務省の「労働力調査」によれば、働く女性のうち45歳以上の割合は54%で、正規雇用に限っても約4割が45歳以上。2人に1人が、45歳以上。半分が45歳を過ぎた女性です。
2025年問題に対処するには、彼女たちにいかに能力発揮の機会を与えるか? が鍵を握っているといっても過言ではありません。
興味深い調査があります。「50代の男性会社員と女性会社員の意識」を比較したところ、以下のような結果が明らかになりました。
- 「各年代で重視していたことは?」という問いについて、男性では「成長」「仕事の面白さ」が20代をピークに年々低下していくのに対し、女性では「成長」「仕事の面白さ」については40代までは低下するものの50代で再び上昇。
- 「昇進・昇格」を重視した年齢は、男性では30代がピークだったのに対し、女性では40代がピーク。
- 働く価値観について、男性では「難しい仕事に挑戦」「昇進・昇給」が全体的に高いのに対し、女性では「良い人間関係」「仕事と家庭の両立」が高い傾向にあった。
- モチベーションが最も高かった時期と比べて「現在の方が低い」と答えた人の割合は、男性総合職では45.8%だったのに対し、女性総合職は21.6%。
- 「今後もスキルを深めたり発展させたい」とした割合(そう思う+ややそう思う)は、男性総合職が58.1%だったのに対し、女性総合職は70.6%。
あれこれ数字を一気に並べ立てましたが、結果を大ざっぱにまとめると「50代の女性会社員はまだまだ元気です! 向上心も成長欲も50歳になっても衰えていません」という元気な女性たちの姿が、男性と比較することで浮かび上がってきたのです(2019年、20世紀職業財団調べ)。
私もインタビューの協力者は男性が圧倒的多数なので、必然的に男性の事情や立場を踏まえて50代問題に言及してきました。そんな中で少数派の女性協力者(インタビュー対象者)にあって、男性にないものを肌で感じていたのも事実です。
それを数値で明確に示してくれたのが340ページにわたるこの調査報告書です(外部リンク)。
2025年問題を救い、日本の未来を照らすのは50代の女性会社員かもしれません。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)がある。
2024年1月11日、新刊『働かないニッポン』発売。
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