三井住友銀行「年功序列の廃止」の真意 人事副部長が語る”20年間の変化”とは【前編】(1/4 ページ)
三井住友銀行が2026年1月をめどに、人事制度を抜本的に変更する方針を示した。その中でも「年功序列の廃止」が注目されている。この人事制度改革はなぜ、何を目的に実施されるのだろうか。
三井住友銀行が2026年1月をめどに、人事制度を抜本的に変更する方針を示しました。その中でも最も注目されているのが「年功序列の廃止」です(参考記事:「『年功序列=悪』は本当か? 三井住友銀行が堂々と廃止できたワケ」)。
これまで三井住友銀行では、人事制度の刷新を繰り返してきました。しかし、その「根幹部分」は三井住友銀行が発足した2001年以降、20年以上使い続けてきたものです。今回の人事制度改革では初めて、その根幹を変えるといいます。
この人事制度改革はなぜ、何を目的に実施されるのでしょうか。人事部副部長の北山剛氏に河合薫が迫ります(取材内容は2024年7月時点のものです)。
なぜ、改革をするのか? いったい何が変わるのか?
河合: 新しい人事制度について、これまでといったい何が違うのか、詳しく教えていただけますか?
北山: 今の制度は2001年に三井住友銀行が(合併により)発足した際、ゼロベースで作り上げたものです。その根幹部分は20年以上ずっと使い続けてきているんです。ちなみに私は2004年に新卒で入社しました。SMBCとなってちょうど3年経った頃です。
河合: 根幹部分というのは?
北山: いわゆる「階層別職務等級制度」という、霞が関の官僚のシステムに似たものです。
河合: 階層別ということは、いったんレールが決まったら、そこで経験を重ねることで評価されるという理解でよろしいですか。一つのキャリアパスしかない、と。
北山: いえ、われわれのキャリアパスは、総合職という考え方で、幅広い業務領域を行き来するものです。さまざまなシチュエーションで、ビジネスに対応できるような人材マネジメントモデルです。これはすごくいいもので、これからも使い続けたい部分です。
「階層」とは、同一年次内での評価の序列をつけるもので、最終的に経営トップを輩出するため、ヒエラルキー型に人材の序列を作っていくというものです。この根幹部分が変わらなかった。しかし、業界を取り巻く環境は大きく変わりました。
そしてもう一つ、「職務等級」があります。これはいわゆる「椅子の値段」で、ポストに応じてある程度の等級が決まっています。これは本来は単独で作用し、力のある人を登用していく制度のはずでした。しかし、職務等級と年次を基準とした「階層」が、長い歴史の中で結びついてきてしまったのです。
河合: 実力だけじゃダメ、年齢と経験がなきゃ上のポジションになれないとなると、若手だけじゃなく中途採用の人も不利ですよね。
北山: 中途採用はこの2、3年で増やしていて200人近くいますので、不利にならないようにと試行錯誤しているのですが、プロパーで蓄積がある人が優先されがちな側面はありました。
その課題意識も、「階層」の改廃という、今回の制度改定のポイントになっています。
ただし、何か決定的な問題が顕在化しているかというとそういうわけじゃない。実は「別に今のままでもいいんじゃないか」という声も多数ありました。
河合: それでも変えたほうがいい、と判断したわけですね。
北山: はい、10年先まで見据えると、業務のウィングはどんどん広がってきている。地域も日本から、グローバルで世界地図ベースに展開していきます。すると2001年にわれわれがセットした制度の根幹部分である「階層」は変える必要がある。
ただし、これまでの年次運用みたいなものを完全に捨てて、新しいものに行くというわけではないんです。われわれの中でだんだんこのフレームを使い続けることに、制度疲労が起きているわけでは正直ないんです。ただ、やはり冷静に考えたときに、どこかでやはりシフトチェンジしていく必要があると考えました。
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