三井住友銀行「年功序列の廃止」の真意 人事副部長が語る”20年間の変化”とは【前編】(3/4 ページ)
三井住友銀行が2026年1月をめどに、人事制度を抜本的に変更する方針を示した。その中でも「年功序列の廃止」が注目されている。この人事制度改革はなぜ、何を目的に実施されるのだろうか。
「スローキャリアを希望する」時期があってもいい
河合: これってちょっとだけいじわるな見方をすると「能力発揮の機会は作った。あとは本人次第だ」っていうことですね。
北山: そうですね。ただ、社員の選択という意味で言うと「管理職を目指したい」という人と、「プレーヤーとしてキャリアをもっと突き詰めていきたい」という人、あるいはライフステージによっても違うと思うんですよね。このあたりは柔軟に選択できるようになります。
河合: それは何歳で選択することになるんですか?
北山: 基本的には毎年キャリアシートを書いてもらう中で、選択できるようにするので1年目からできます。ライフステージに応じて「向こう3年間はマネジメントというよりはプレーヤーとしてのキャリアの方がいいな」とか、スローキャリアを希望する人もいますよね。
河合: 40過ぎて今更だけど……っていうのもOKですか。
北山: もちろんです。ただ当然そこに行けるかどうかは評価次第です。新しいこの制度では「人材ポリシー」という考えがあり、会社社員に提供する価値を「自分らしさの表現」と呼んでいます。
河合: 昭和のなごりの悪しき部分として「能力発揮の機会がありそうでなかった」「結局上司が決めてた」「上司がまだと言えばまだだし、上司がお前行けよと言ったら動くし」といった具合に、上司が“会社員人生の最大のリスク”になり得るわけですが、このあたりはどうなるんですか? つまり、評価する人の教育ですね。
北山: 2つの観点があると思っています。一つは、管理職の評価リテラシーやそのフィードバックスキルが弱かった点です。ピープルマネジメントなど、いわゆる体系的な学びを会社が提供できていなかった。自分が育ってきた中で出会った上司の上司像をロールモデルにするパターンと、反面教師にするパターンで、それで自分がどういうマネジメントをやるかって自分で考える。これまでは、こういうスタイルがあったと思います。
ここ10年ぐらいでかなりマネジメント教育を増やすなど、いろいろ力を割いてやっていますけれども、やはり現場のマネジメントはタスクマネジメントで業務推進が中心。その中で人を育てていくスタイルです。この部分をわれわれは反省していて、会社としてもっとマネジメントの皆さんへの人的資本投資をしなくてはならないと考えています。
一方で、各職場で「上司は部下を偉くすることが、上司の最大の誉れだ」という考えが根付いているんですね。それはある意味、上司と部下の関係性としては素晴らしい。上司も部下をしっかりと育てて偉くしてやりたいっていうパッションを持っている人がたくさんいます。なので、昇進とかの話になると、とにかく部下のいいところをガンガン上げてくるんですよね。部下のいいところをあげることに一生懸命になってしまう場合も少なくありません。
河合: 情ですね。でも、情だけだったり、それが強くなりすぎるとよろしくない。
北山: はい、ここの部分にテクニカルといいますか、ピープルマネジメントのいろんなスキルセット評価リテラシーというのをセットするのがこれからの在り方かなと思っています。課題をより良くするとか、強みを伸ばすとか。求められている人材マネジメントの在り方を、われわれ人事の方から提供していけば、すごく良くなると思うんですよね。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
米Amazon、Googleも出社回帰 なぜ、わざわざ脱リモートするのか?
米Amazonがリモート勤務を原則廃止し、週5日出社に戻すと報道された。なぜ、リモートワークもできる世界的なIT企業がリアル出社に回帰しているのか。チームの生産性を向上させるには、どうしたらいいのだろうか。
「自分で考え、動ける社員」を作る──リコーは何をしているのか
「リコーは2020年にOAメーカーからデジタルサービスの会社になると宣言している」――リコーの長久良子CHROは、自社の人的資本戦略に変革が必要になった理由をこのように話す。リコーが2020年から進めてきた、自律的に考えて提案できる社員を育む人的資本戦略と、見えてきた課題感とはどのようなものか。
イオン「デジタル人材を2000人に」 どのように定義し、育てていくのか
イオンは「2025年までにデジタル人材を2000人にする」との目標を掲げている。デジタル人材の定義や育成方法を取材した。
「育休はなくす、その代わり……」 子なし社員への「不公平対策」が生んだ、予想外の結果
出生率が過去最低となり、東京都ではついに「1」を下回ったことが大きく話題になっています。結婚や出産を希望する人が、安心してその未来を選べるようにするために、企業ができることは何か。「育児休暇をあえてなくした企業」の事例をもとに、社員を疲弊させない経営戦略について考えます。
自ら“窓際社員”になる若者──「静かな退職」が増えるワケ
最近の若い人たちは、人生設計がしっかりしている。しかし、仕事のプライオリティは確実に下がっている──。そんな悩みを、リーダー職に就く方々から聞くことがよくあります。米国では「必要以上に一生懸命働くのをやめよう」という「静かな退職」が話題になりました。なぜ、このような現象が起きるのか、そしてマネジャー層はどのように対応すべきなのか。健康経営学者の河合薫氏が解説します。

