7割がメンタル低下を経験──「管理職=罰ゲーム」にしないための戦略:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/2 ページ)
「管理職は罰ゲーム」と揶揄されるほど、管理職という役職が嫌われるようになってしまいました。なぜ、このような事態になるのか。管理職を罰ゲームにしないために、どのような取り組みが必要なのか。河合薫氏が考察します。
「管理職は罰ゲーム」と揶揄されるほど、管理職という役職が嫌われるようになってしまいました。
確かに管理職になると責任も増えるし、やることも山ほどある。働かない部下にイラッとすることもあれば、産休育休などで外れるメンバーが多く「いったいいつになったら、うちのチームは全員で戦えるのか?」と文句の一つや二つ言いたくなることもあるかもしれません。
とりわけ「課長」は上と下との板挟みで大変です。
私もこれまでのインタビューで「課長になってから、ぐっすりと眠れたことは一度もない」「前例を覆す決断の難しさに直面している」「期待していた部下が突然辞めてしまった。自分の何が悪かったのか」「休日も仕事のことが頭から離れない」など、会社では言えない“本音”を山ほど聞いてきました。
「管理職を罰ゲームにしない」ための戦略
それでも「管理職を辞めたい」「もとの役職に戻りたい」という人はいませんでした。「大変だけどおもろい!」「苦労が多い分、うまくいった時の感激が半端ない」と顔をほころばせるのです。
その一方で、私のインタビューの協力者は圧倒的に40代、50代が多いので、30代の若い管理職の胸の内はいま一つ分かりません。そんな中、マイナビが800人(20代51人、30代349人、40代・50代各200人)の管理職を対象に「管理職の悩みと実態調査」を実施した結果が公表されました(外部リンク)。
そこで今回は「管理職を罰ゲームにしない戦略」をテーマにあれこれ考えます。
まずはその調査結果から、私が気になったものだけ紹介します(以下、抜粋・要約)。
- 管理職になって良かったと感じていない人が全体で4割を占めたが、課長では59.4%が、部長では74.6%が「管理職になって良かった」と感じていると回答し、役職があがるほど肯定的な意見が多かった。
- 「管理職になって良かったこと」を聞いたところ、「裁量が増えた」「決裁権が増えた」「視野が広がった」「給与が上がった」などが挙がった。
- 管理職になって良かったと感じる人は良かった点について、「信頼度が高まった」「部下の成長」「上司の気持ちが分かるようになった」など、人間関係に関する記述が上位を占めた。
- 「理想の管理職手当額」の中央値は月10万円だったのに対し、「現在の管理職手当額」は5万円で、ギャップは月額5万円。自身の働きと給料は「見合っていない」と6割強が回答。
- 「マネジメントについて相談できる相手」を聞いたところ、「直属の上司」が42.8%で最も高く、次いで「違う部門の同僚」が28.3%、「上位階層の知り合い」が27.1%と続いた。一方で、23.8%が「相談できる人はいない」とし、「管理職になって良くなかった」人の4割が「いない」とした。
- 「管理職になってからの変化」のトップは「仕事の比重が増えた」(75.8%)が最も多く、以降「心身の健康が損なわれた」(68.9%)、「プライベートや家族との時間が楽しめなくなった」(55.4%)が続いた。
さて、いかがでしょうか。あれこれ数字をあげましたが、大雑把にまとめると「管理職って悪いことばっかじゃないよ。でも、やっぱり上司に相談できないとしんどいし、仕事量増えるわりには期待するほど手当はつかないし、ぶっちゃけメンタル的にもきつい」ってこと。
かつて「身代わり残業」や「名ばかり管理職」が問題になりましたが、「管理職になりたい!」「管理職になってよかった!」と社員に思わせるには、会社が「管理職」をどう位置付け、どうサポートし、どんな「武器」を持たせるか? が重要です。
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