「そんなこと教わってません」――同じミスを繰り返すのに覚えない部下、責めずにこう声を掛けよ:「指示通り」ができない人たち(4/4 ページ)
同じようなミスを繰り返す従業員の処遇に頭を悩ませる経営者は少なくない。
「分かったつもり症候群」からの脱却
後者のケースでは、メタ認知の欠如が考えられる。何度も注意されたり、あらためて教わったりしたということは思い出せるのに、同じようなミスを繰り返してしまう。自分がミスをしたということを深く受け止め、申し訳ない気持ちになっても、また同じようなミスを繰り返す。それはミスの原因にしっかり目を向けないからだ。なぜミスをしたかという視点から自分のやり方を振り返り、チェックするということができていない。つまり、メタ認知的モニタリングができていないのである。
ダニングとクルーガーは、成績が悪いのにそうした自分の問題に気付けない人たちの理解力を鍛えれば、自己認知が進み、自分の能力の問題に気付けるのではないかと考えた。
そして、介入実験を行った結果、読書によって認知能力を鍛えることで、自分の能力を過大評価する傾向が弱まることが証明された。読書により読解力が高まることは多くの研究により実証されているが、それによって自己認知能力が高まり、メタ認知までうまく機能するようになり、「分かったつもり症候群」から脱することができるというわけである。
これは読書により認知能力を高めることによって自分の現状にも気付かせようというものだが、もっと直接的にメタ認知のトレーニングをするという方法もある。
デルクロスとハリントンは、メタ認知的モニタリングの能力向上のためのトレーニングを行っている。そこでは、「問題を注意深く読んだか?」「問題を解くための手がかりは見つかったか?」など、問題そのものやその解法についてじっくり考えるように導く質問を行い、また何点くらい取れたかを尋ねている。その結果、トレーニングを受けたグループは、受けなかったグループと比べて、明らかに成績が良くなっていた。
つまり、このようなメタ認知的モニタリングを促すトレーニングによって、問題をめぐってじっくり考える姿勢が促され、同時に自分の理解度に関してもじっくり振り返る姿勢が促されたと解釈することができる。
この実験では、実験者がメタ認知的モニタリングを促す質問をしているが、それを自問自答に置き換えることができる。自問自答する心の習慣をつけるように促すのだ。「この作業はどのようにするのが効率的か?」「自分はちゃんと教わったやり方でやっているだろうか?」と自問自答する。ミスをしたときも、「何がいけなかったんだろう?」「今後どういうことに気を付ける必要があるだろうか?」などと自問自答する習慣が身につけば、同じようなミスを繰り返すこともなくなっていくはずである。
自分の力量に気付かず、「できる人」のようにふるまって迷惑を掛ける人、取引先に一緒に行っても、まったく違う理解で物事を進めてしまう人、状況の変化に対応できず、すぐにパニックになってしまう人、そもそも「指示通り」に動くことが難しい人……。そういう職場にいる人たちを紹介しながら、その改善策も一緒に考えていく本。
そういう人たちの深層心理を理解することで、改善策にも近づくことができる。さまざまなケースをもとに、心理学博士の著者と悩める上司の会話で文章を展開。
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