【事例で解説】一斤「3000円」のオーガニック食パンを売る方法 5秒・18秒・58秒の自己紹介で差をつける(1/3 ページ)
一年前にパン屋を開業した「超ナチュラルオーガニック食パン」を一斤3000円で売り出しましたが、売り上げが伸びません。売り上げを向上させるために、これまで「お客さまのニーズ」「超ナチュラルオーガニック食パンのリソース」を言語化してきました。後編では、「検討と分析」のポイントを紹介します。
この記事は、『はじめまして売れる『伝え方』のぜんぶです 新発見!お客様の反応が変わる58秒』(日野眞明著、三恵社)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。
ここまでの流れ
一年前にパン屋を開業した日野五十鈴さんは「超ナチュラルオーガニック食パン」を一斤3000円で売り出しました。折からの高級食パンブームに乗ろうという目論見(もくろみ)です。でも売れゆきが芳しくありません。
売り上げを向上させるために、五十鈴さんは「お客さまのニーズ」「超ナチュラルオーガニック食パンのリソース」を言語化してきました。後編では、「検討と分析」のポイントを紹介します。
まずは仮説の設定です。五十鈴さんは「超ナチュラルオーガニック食パン」の隠れたニーズ「もっと食を楽しみたい」に注目しました。そこで「『超ナチュラルオーガニック食パン』が、お客さまの健康以外の楽しみにもつながれば、売り上げは伸びる」と仮説を立てました。
「仮説」を立て、ニーズと現実のギャップを見つける
次は課題の発見です。この仮説と「超ナチュラルオーガニック食パン」のリソースのギャップを見つけるのです。
「超ナチュラルオーガニック食パン」はおいしさという点ではお客さまの楽しみを満足させることができていると考えました。息子にも同級生にも評判だったからです。そのうえ、安心安全もクリアしています。五十鈴さんは自信がありました。その自信ゆえ、まじめなパンづくりのアピールに専念し、包装や商品説明には気を配りませんでした。それどころか、他社の商品を非難するチラシを作成して「超ナチュラルオーガニック食パン」に同封するなども実施していました。支持するお客さまもいましたが「食を楽しむ」からは程遠い状態でした。
しかし元はと言えば、パンづくりは、パン好きの息子を喜ばせるために始めたことでした。まさに「食を楽しむ」です。安心や安全は「食を楽しむ」ことの要素の1つにすぎないはずでした。五十鈴さんは、オーガニックパンの勉強にのめり込むうちに、それを忘れてしまっていたことに気付きました。
そしてギャップはここにあるのではないかと思いました。
つまり課題は、「『超ナチュラルオーガニック食パン』が『食を楽しむ』ものであることを、お客さまに伝える」ではないかと、五十鈴さんは結論づけました。
五十鈴さんは念のため、これを文章化してみることにしました。文章をつづるのが得意ではないという人は、無理に実践する必要はありません。
私がパンづくりを始めたきっかけは、息子の病気です。息子はスポーツ好きの食いしん坊で、もちろんパンも大好きでした。でも病気をきっかけにスポーツを止め、元気もなくなってきたのです。成績も落ちる一方だし、食も細くなってしまいました。そんな息子を励まそうと、私と夫はおいしい食べ物を探し歩きます。そして最後に行き着いたのが自分で焼いた手づくりパンだったのです。息子が『おいしいね』と言って、パンをわしづかみにして食べてくれた時の感動は忘れられません。
このパンをきっかけに息子は元気を取り戻しました。私も体にいいパン、心を元気にするパンを焼くことを生きがいに感じるようになりました。そのうちパンづくりの仲間たちや、材料を提供してくれる農家さんたちの影響で、オーガニックパンにのめり込み、お店を開きました。そして、もっとみんなにパンのすばらしさを知ってほしい、健康について考え、安心安全な食生活を送ってほしいという思いを込めて、究極の食パン「超ナチュラルオーガニック食パン」を完成させました。
でも売り上げは芳しくありません。周囲からは高い値段設定が敬遠されたのだと言われます。でも私はこのパンには、それだけの金額を払う価値があると自負しています。この価値をお客さまに伝えたい。何だかこれは、私の使命のような気がしていたのです。
しかし振り返ってみると、私の思いが強すぎて押しつけがましくなっていたのですね。お客さまがパン屋に求めているのは、えらそうな理屈じゃなく、息子が「おいしいね」と笑ってくれたような「食を楽しむ体験」だったのだと思います。
だから私は、「超ナチュラルオーガニック食パン」を「お客さまに食を通じて、貴重な体験をしてもらうためのパン」だと考えるようにしました。お客さまの立場で考えると、そう考えるほうが、私の思いが伝わる気がしたからです。
五十鈴さんの思いがはち切れそうです。しかし最初と異なるのは、自分のこだわりだけでなく、「伝わること」と「お客さまの立場」を考えるようになった点です。格段の進歩が見られます。
さて次はアウトプットです。
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