最短15分で配達 “大学生向け”の超高速配送、米Gopuffがヒットした2つの理由:グロービス経営大学院 TechMaRI 解説(3/3 ページ)
物流ラストワンマイルの自動化が注目を集めている。今回は消費者の利便性を向上させる可能性の一つである「超高速配送」に焦点を当て、その現状と今後の展望について考察する。
インドでは3社寡占のシェア争いが盛り上がる
もう一つ、世界で最も超高速配送が盛り上がるインドの事例を見ていこう。インドにおける超高速配送市場は、Swiggy、Zomato、Zeptoの3社による寡占状態が続いている。
Swiggyを軸に、インドで超高速配送が盛り上がる背景を見ていこう。
もともとフードデリバリーで高いシェアを誇っていたSwiggy(2013年設立)は、「利便性の王様(King of Convenience)」をビジョンに掲げ、フードデリバリーと並ぶ中核事業として超高速配送「Instamart」を展開している。Instamartが国内トップ3に君臨する背景には、Swiggyのもう一つの事業であるフードデリバリー事業が深く関わっている。
インドにはもともと出前文化がある。ただし現在のフードデリバリーサービスとは違い、電話注文が主流で、遅配も日常的であった。2015年頃のフードデリバリー(アプリで簡単に注文ができる新しい出前)黎明期においても、配送は飲食店や地元の配達業者が担っていた。
競合が掲載飲食店数とユーザー数の増加に注力して事業エリアを拡大していく中、Swiggyはエリア拡大を一旦ストップして、短時間配送を可能にする配送網を自前で構築することに集中している。
ゼロから効率的な配送ネットワークを自前で構築するのには時間がかかる。しかし、これまでにない短時間配送という顧客体験は大きな武器となった。競合も追随したが、Swiggyは先行者利益を確保。2019年にはサービスエリアを500都市にまで拡大した。
コロナ禍でフードデリバリー市場が一時的に縮小したことを受け、Swiggyは2020年8月に新たな収益源として超高速配送「Instamart」を開始した。成長のカギとなったのがフードデリバリー事業で構築した配送ネットワークだ。
フードデリバリーでは注文は食事の時間帯に集中するが、超高速配送では食事の時間帯以外でドライバーの稼働率を高めることもできる。また、超高速配送は初期コストはかかるものの、配送だけを担うフードデリバリーと違い、小売としての利益も得られる。Swiggyの超高速配送は急速に成長し、2022年には評価額が100億ドルに達した。
インドでの市場環境も超高速配送の成長を後押しした。インドでは外資規制のため都市部でもコンビニが少なく、個人零細商店のKiranaが小売の9割を占める。
需要の大きいインドではフードデリバリーでも競合だったZomatoも超高速配送に参入し、後発のZeptoも急成長。現在は3社による激しいシェア争いが繰り広げられている。
ここまで、超高速配送の仕組みと、海外の成功事例についてみてきた。次回の記事では、超高速配送が日本で浸透しない要因や、日本国内での成功事例を紹介する。
中村香央里 グロービス経営大学院 テクノベート経営研究所 副主任研究員
グロービス経営大学院の産業創生・人材育成を研究する機関であるテクノベート経営研究所副主任研究員。
三井住友銀行投資銀行部門を経て、SMBC日興証券で日本経済エコノミストとして国内外の機関投資家(債券市場・株式市場)向けにレポート執筆。ユーザベースに入社後は、SPEEDAアナリストとして調査・分析・執筆、新規コンテンツ開発の立ち上げに従事。
また、経済メディアNewsPicksの編集部で記者・編集者として情報発信。2023年より現職。 東京大学経済学部卒。
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