最短15分で配達 “大学生向け”の超高速配送、米Gopuffがヒットした2つの理由:グロービス経営大学院 TechMaRI 解説(2/3 ページ)
物流ラストワンマイルの自動化が注目を集めている。今回は消費者の利便性を向上させる可能性の一つである「超高速配送」に焦点を当て、その現状と今後の展望について考察する。
「大学生向け」 米Gopuffがヒットした2つの理由
Gopuffとは、食料品、アルコール、家庭必需品などを注文から最速で15分以内に配達するサービスだ。現在は24時間体制で提供している。
2013年、Gopuffは学術都市の大学生向けに始まった。カレッジタウンには商業施設は少ない。娯楽もないためパーティーを開くが、パーティー中にスナックが欲しくても買い物には車が必要だ。ニーズに応えるべく、商品を50種類に絞り、深夜限定営業で事業を開始。学術都市を中心に、ボストン、ワシントン DCなどに進出し、事業を拡大した。
設立から5年後には著名なベンチャーキャピタルであるAccelから資金調達に成功した。当時、ギグ配送プラットフォームは薄利多売の構造に加えて、ギグワーカーの保護(2017年、失業保険を巡った裁判でドライバー側が勝訴)といったビジネスモデルの弱点が露呈し始めていた。このため、垂直統合型のECであるGopuffは新しいオンデマンド配送のパイオニアとして注目を集めた。
Accelの投資以降、Gopuffの資金調達額は大型化し、評価額は大きく伸び始める。2019年8月からの2年4カ月で47.8億ドルを集め、評価額は402億ドルにまで成長した。
コロナ禍では、学校閉鎖や在宅勤務が急増した。食料品、飲料、日用品に加え、清掃用品や市販薬などの配達需要が爆発的に増加。平均購入単価も上昇した。超高速配送のドライバーは時給制や正社員が多いため、限界利益は高い。ドライバー1人あたりの配達回数が増えるほど利益は増える。Gopuffはロックダウンから数週間後には大規模な採用を開始し、事業を急速に拡大し、2021年には欧州市場に進出した。
しかし、外出制限が緩和されると即配デリバリーの需要は縮小。コロナ渦中に設立された超高速配送スタートアップは多くが買収済みか廃業しており、一部企業だけが大型M&AでのExitに成功した。
Gopuffも注文数の減少により76の倉庫を閉鎖し、従業員の10%を解雇した。欧州市場からも徐々に撤退し、現在は米国と英国のみで運営している。収益はピーク時の3分の2程度に低下したが、年間ユーザー数はコロナ禍が始まった2020年よりも多い。
Gopuffが他の撤退した競合と異なる点は、2つある。
1つ目はコロナ禍という特殊な環境でなくても需要があるマーケットで創業した点だ。若い世代かつ買い物困難者が多い学術都市という特定のニーズに合致したサービスを提供することで、初期の顧客基盤を確立した。
2つ目は、徹底したユーザーフォーカスだ。現在でもターゲットを明確にZ世代に定めている。若い世代の人口密度が高ければ、たとえ都心でなくても、競合が選べないエリアで事業を展開できる。
GopuffのZ世代ターゲティングはその商品ラインアップを見れば一目瞭然である。酒やタバコ、スナック、エネルギードリンクなど若者向けの定番商品に加え、話題の新商品の調達も欠かさない。前述したとおり、超高速配送の取り扱い商品には上限がある。購買データを徹底的に分析し、Z世代の即配需要に絞り込んだ品ぞろえを実現している。
現在はプライベートブランド(PB)を強化している。PBは低価格帯でも利益を出しやすい上、顧客ロイヤルティ向上につながる。全注文の20%にPB製品が含まれるほどの人気商品だ。2024年5月には高価格帯ライン「Basically Premium」を開始し、Z世代向け小売No.1を目指す。
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