通信の秘密はどうなる? 「能動的サイバー防御」新法が企業に与える影響:世界を読み解くニュース・サロン(2/4 ページ)
「能動的サイバー防御」導入に向けた法律が成立した。「通信の秘密」の侵害などの懸念も残るが、ようやく世界標準のサイバー攻撃対策が可能になる。企業にとっては、報告や届け出の義務が増えることになり、負担は重くなりそうだ。
権利を「不当に制限しない」ことを明記
政府はどのような通信情報にアクセスするのか。例えば、サイバー攻撃に関係しているとみられるメールアドレスやオンライン上の住所であるIPアドレス、そして送受信の日時などのメタデータがある。メールなどの内容そのものは見ない。
ただ、どこまで当局側が情報にアクセスするのかについては、個人も企業も不安が残るかもしれない。事実、現代ではこうしたメタデータにひも付けなどをすれば、個人を特定したり監視したりできてしまう。
法案の審議でも、野党の一部がこの部分を問題視していた。そのため新法には、国民の権利を「不当に制限するようなことがあってはならない」という条文が追加されている。
また、こうした懸念が出ていたことから、通信の監視や分析には、国内の企業や個人同士の「内内通信」(国内同士での通信)は含まないことになった。ただ、海外の通信が絡めば「内内」ではなくなるため、企業や個人が何らかの形で分析対象になることもあり得る。
今回、警察や自衛隊が独立機関の「サイバー通信情報監理委員会」を設置することになった。そこで承認を得た上で、攻撃元のサーバなどに「通信の秘密」を侵害してアクセスし、無害化することになる。そこで乱用を防ぐという。
もっとも、サイバー攻撃について国内外で長く取材してきた筆者は、日本にも能動的サイバー防御のような法整備が不可欠だとずっと言ってきた。今回の新法も歓迎しているが、ここはスタート地点に過ぎず、これからさらに時代に合わせて進化していってほしいと願っている。
米国を例にとると、以前のバラク・オバマ政権では、大規模な攻撃的サイバー作戦については大統領の承認が必要だった。ところがドナルド・トランプ政権になると、時代の流れに合わせて、現場のサイバー部門の裁量を大きくした。
この分野でやっと走り始めた日本には、サイバー通信情報監理委員会という組織が今のところは必要だろう。だが、運用していくとスピード感が求められるようになることは間違いない。この辺りの調整も、今後必要になるだろう。
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