新規分野の「探索」と既存事業の「深化」 両方できる“両利きの経営者”の特徴は?
中小企業が「100億企業」に成長するには、経営者の成長が最も重要な要素になる。今、中小企業の経営者たちは、どのように変わっていくべきなのか。
日本では中小企業の成長が急務となっている。日本企業のほとんどを占める中小企業の成長なしでは、国内経済全体の成長が見込めないのだ。そんな中、経済産業省は中小企業の「売上高100億円」化を目指し、支援するプロジェクト「100億宣言」を開始するなど、サポートの姿勢を見せている。
5月13日、船井総合研究所と神戸大学大学院経営学研究科が共同で開催した「100億企業化研究公開シンポジウム2025」では、中小企業が「100億企業」に成長するには、経営者の成長が最も重要な要素になると語られた。今、中小企業の経営者たちは、どのように変わっていくべきなのか。
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中小企業の経営者に求められる「両利きの経営」
中小企業庁によると、「経営者には成長段階に応じた課題認識と戦略が求められている。その対応を強化する上では、他の経営者を含めた外部関係者から気付きを得ながら、経営者が経営リテラシーを高めていくことが有効」だという。
そこで求められるのが両利きの経営だ。事業創出や顧客開拓といった新規分野の推進を指す「探索」と、収益性の改善や既存顧客との関係強化など、既存ビジネスの深堀を指す「深化」を両利きで追求していく手腕が求められている。
「深化は得意だが、探索は苦手という経営者が多い」(船井総合研究所 副本部長 下田寛之氏)
船井総合研究所が実施した調査によると、両利き経営を実施している企業は売り上げ成長率が13.8%、営業利益率が2.5%で、探索型、深化型と比較して高かったという。「売上高100億円企業では特に探索特性が高かった」(船井総合研究所 下田氏)
両利きの経営を実現できている経営者、どんな人?
共同研究では、両利きの経営を実現できている経営者がどんな人なのか、“両利き性”を決定付ける要因を分析した。
調査では経営者によく見られる4つの特性に注目した。
- 心理的所有権:「個人が所有対象またはその一部が『自分のもの』であるかのように感じる状態」であると定義される。「会社は自分のものだ」という経営者の会社・組織への当事者意識の強さを指す。
- 社会関係資本:「人と人との関係性に埋め込まれた資本」であると定義されている。経営者の持つ人脈(経営者ネットワーク)やその中で形成された信頼などを指す。
- 企業家志向性:「革新性、リスクテイキング、競争的な攻撃性」などを含む概念。革新性や、リスクをとること、ライバルと競争することをいとわない志向性を指す。
- 経営環境:「市場におけるライバルとの競争の激しさや技術や顧客の志向性などの変化」などを含む概念。市場における自社の立ち位置や、自社が提供するビジネスを取り巻く環境の変化に対する認識を指す。
共同研究で行った調査によると、経営者の特性タイプについて、両利き72件(33.3%)、探索38件(17.6%)、深化38件(17.6%)という結果になった。
4つの特性のうち、「心理的所有権」は探索特性、深化特性、両利き特性どれにも影響はなかった。「社会関係資本」は探索特性、深化特性、両利き特性全てを向上させた。「経営者は自身の社内外のネットワークを活用し、資源や協力を獲得し、両利きの経営を実現しているようだ」(神戸大学大学院経営学研究科 准教授 塩谷剛氏)
「企業家志向性」は調査の結果、革新性と競争姿勢という2つの概念に分かれた。革新性は探索特性、深化特性、両利き特性全てを向上させた。一方競争姿勢は、両利き特性、探索特性を向上させることが分かった。塩谷氏は「リスクを恐れず、先駆的な行動や考え方を持つことが両利きの経営を促進させる」と分析する。
「経営環境」は両利き特性、探索特性を向上させたかが、深化特性への影響はなかった。技術の変化、顧客の嗜好の変化に敏感な経営者ほど、探索の取り組みを強化し、両利きの経営を実現するケースが多いようだ。
「調査の結果、探索と進化それぞれに取り組むことによって財務業績が向上することが分かった。一方、探索と進化の相乗効果は確認されなかった。もちろん探索と深化両方の総量を高めれば業績は良くなるが、探索と深化の事業を関連付けていくことも重要となる」(神戸大学大学院経営学研究科 塩谷氏)
4つの特性の中で、最も影響が大きいのが「社会関係資本」だ。塩谷氏は、社内外のネットワークの構築と、やるべきことも明確なため、中小企業の経営者はここから始めるといいのではないかと語る。プロジェクトやネットワークイベントへの参加の他、外部企業への出向や副業など、ネットワークを広げる機会はさまざまある。
この時、探索の取り組みを促進したい場合は異業種、異なるエリアでビジネスを展開している人など、自分と遠い人とつながるのが有効だ。「同業、同エリアの人と固まってしまうと、情報が均質的になり、新しいビジネスにつながりにくい」(神戸大学大学院経営学研究科 塩谷氏)
一方深化の取り組みを促進する場合は、社内メンバーなど身近な人とのネットワークを強化するとよい。「探索から出たアイデアを実際にビジネスにつなげるには、社内のメンバーの協力が欠かせない」(神戸大学大学院経営学研究科 塩谷氏)
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